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孤独 2
執着とかじゃない。
俺はあいつを独りにして縛らなくちゃいけない。
そうでもしないとあいつは俺のことなんて簡単に忘れるんだから。
知らない間に出てきた女なんかに奪られたくない。
なんでそれが分かんないの。
翌日、直は学校を休んだ。
けれど嬉しくも、愉しくもなかった。
自分の思い通りになっていない気がする。
あの女は学校に来ていた。
廊下ですれ違い、俺を見るとふいと視線を逸らした。
無性にイライラして、声をかける。
「霧島さん、直とはどうなった?」
彼女はビクリと肩を震わせたが、そのまま行こうとした。
「ああ……やっぱりダメになっちゃったんだ?」
そう言うと、泣きそうな、怒ったような顔で振り向いた。
そりゃあそうだよね。
あんなところ見ちゃったんだから。
「……なんで、あんなことしたの?あなたに何かしたっていうの…?」
きっ、と睨みながら彼女は言った。
やっぱり、と溜息が溢れる。
「でも別れて正解だと思うけどなあ、あんな奴。感謝して欲しいくらい」
「…どういう意味?」
やっぱり何も知らないんだ。
幸せ者だなあ、この女。
きっと直は嫌われたくなくて言わなかった。
その事実は俺をさらに苛立たせた。
「あいつ、あんたが思ってるような男じゃないから」
「え?」
「俺あいつのこと嫌いなんだよね」
「……友達じゃ、なかったの?」
思わず吹き出した。
「ふっ…、ハハッ!確かに子どもの頃からの知り合いだけど、友達じゃないし仲良くもなかったよ」
直が教えてくれたんだ。
「友達じゃない」って。
あの頃のことは全部嘘なんだって。
ぜんぶ、ぜーんぶ偽り。
最初から俺は直の玩具だった。
「だからあんたに言った『直が話したがってる』って言うのは嘘。俺がお前らを呼んだんだ」
俺が言うと、何も言えない様だった。
「……毎日毎日、嫌なこと言われて、殴られてさあ。ほんと…あんなに惨めな思いは初めてだった」
ずっと影で嗤われてたなんて気づかずにいた自分が馬鹿らしかった。
「あんたは俺らのことには関係ないけど、こうなったのは直のせいだから。…あいつは平気で他人を傷つけるヤツだよ」
直が一番知られたくなかったこと言っちゃった。
でも直が悪いんだから。
きっとこの女は直を嫌悪する。
でも、この女はあり得ない言葉を口にした。
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