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孤独 3
「違う……。倉橋くん…『自分は最低だ』って、」
「は?」
何を言われたのか分からなかった。
「ずっと、何か思いつめた顔してて。前も、そう言ってた…」
何。
「何言ってんの」
「あたしは何も知らなかったけど後悔してるのは見てた。…苦しそうな顔、してた」
「嘘だ」
……なんなんだ、なんなんだよこいつ。
バカじゃないのか。
嘘だ、そうに決まってる。
直はこの女が好きなんだ。
この女と距離を置いたのだってそういうことだろう?
俺のことなんて目もくれない。
直の中の俺は、どうなろうがどうでもいい存在なんだ。
「嘘じゃないよ。初めて一緒に出かけた時だって…笑っていても、どこか無理してるようで……時々、何か考え事してた…」
だんだんと泣きそうな声が混じる。
意味が分からなかった。
なんでこの女は泣きそうなんだ?
苦しそうな顔ってなんだ?
この女の前でも直は俺のことを忘れてなかった?
「倉橋くんは、今あなたが思ってるような人じゃない」
…………そんなもん、信じられるか。
そうだとしても、時間が経てば忘れられるんだ。
だって、きっとこの二人はお互いが好きで、お互いが大事だから。
昨日、あの光景を見せれば全部壊れると思ったんだ。
この女が幻滅して、直を捨てる。
そうしたら直も俺と同じ独りになるから。
でも、この状況はなんだ。
今のこいつの様子から考えると、直は独りじゃない。
直にはこいつがいる。
俺だけ、独り。
独りなのは、俺だけ。
「……いやだ」
なんでこうなるの。
なんで俺は今も独りなの。
ナオは、みんなのところに行っちゃった。
みんなと一緒に離れていったんだ。
どうしてナオは俺をひとりぼっちにしたの。
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