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本心

*** 「なあカナ、短冊何て書いた?」 「うわっ!」 後ろの方からナオがいきなり覗いてきた。 「な、なんなんだよ。ビックリしたじゃん」 「ごめんごめん、で何て書いた?」 「……まだ書いてない」 書けない……。 すぐに浮かんだけど無理だ。 「これからもナオと一緒にいられますように」なんて。 「マジで?俺もう書けた」 「何書いたの?」 「これ!」 元気よく、俺の前に出された短冊には「カナとこれからも友達でいられますように」と書かれていた。 「色々あって迷ったんだけどさー、やっぱりこれが一番しっくりきたんだ!」 「しっくり?」 「なんか『これ!』って感じ?がした」 「…何それ」 そっけない返事をしたけど、内心嬉しくて、身体が熱くなった。 「友達」だけど、それでも俺とのことを書いてくれたという事が嬉しくてしかたがなかった。 「カナも書いて!」 「何を?」 「だから、『俺と一緒にいる』って!」 「……ッ!」 嬉しい、どうしよう。 やっぱり、ナオが好きだ。 *** 小学生の時、七夕の時期になると短冊に願い事を書くという習慣が学校にあった。 クラスに一本ずつ笹が配られて、それに短冊を飾る。 結局俺は「一緒にいれますように」とは書かず、その頃興味を持っていた宇宙飛行士になれますようにと書いた。 直に「どうして書かなかったんだ」と拗ねたような口調で言われたのは覚えてる。 恥ずかしくて書けなかった。 それに、二人してお互いのことを書いた願い事なんて不自然に決まってる。 だから適当に将来の夢を書いた。 それでもあの時俺は、確かに、書かなくても心の中で同じことを願ったんだ。 あの嘘の願い事を、本気で願っていたんだ。 「…もしかして、奏斗くん?」 突然名前を呼ばれ顔を上げると、もう長いこと会ってない人がいた。

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