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本心 3

家に入ると、見覚えのある光景が広がった。 靴棚の上に置いてある花、鈴蘭の花だ。 おばさんの好きな花なんだと直に聞いたことがある。 今も飾ってあるんだ…。 目の前に階段があり、ゆっくりと上がっていく。 「……」 記憶を辿り、直の部屋を探す。 確か、この部屋…。 ある部屋の前で止まり、ドアを開ける。 青を基調とした部屋。 机とベッドの位置も変わってない直の部屋。 綺麗とは言えないけど、昔よりも机の上の物が整理されている気がした。 入った時、何故か鼻の奥がツンとした気がした。 変わらない位置にあるベッドに近づき、腰掛ける。 見ると、直はいつもより少し赤い顔で眠っていた。 ……もし直が起きていたら、俺は何を思っただろう。 きっと直は俺を見ると、身体を強張らせる。 俺はそれを見て、何を思う? 面白い反応だと笑うんだろうか。 本当に笑える? 罪悪感や恐怖が入り混じった顔を見て本当に笑える? …笑える。 そう、嬉しくて笑っちゃう。 もっともっと俺のことを考えて。 考えて苦しんで、溺れてよ。 独りになったら俺が面倒見るよ。 風邪を引いても、こうやって側にいて、看病するよ。 ご飯だって作ってやる。 「……ごめ、ん…」 「え…?」 小さな声が聞こえたと思うと、直の閉じている目から涙が一筋流れた。 ……今、「ごめん」って言った? 寝言だよな…。 「誰に?」なんて、聞くまでもない。 あの女だろ? 涙まで流して謝って。 「そんなに大事かよ……」 ああ、もう一度壊してやりたい。 こいつの何もかも、粉々にすることが出来たらいいのに。 「心配しないで」 全部忘れさせてやる。

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