95 / 111
お願いだから
俺の異常な感情は消えていなかった。
「憎悪」の奥にあったのは、あの行き場の無い想い。
持っていてもどうすることも出来ない感情。
側にいたい。
嫌われたくない。
俺を見て欲しい。
俺と同じ気持ちでいてくれたら。
叶わない願望は知らない間に大きくなっていた。
本当は分かってた。
ナオは間違ってない。
ナオが言っていた「気持ち悪い」というのは、事実だったから。
秘密にしていても、知らない間に表に出ていて、そんな気持ちを与えてしまったのかもしれない。
男に好かれてるなんて、嫌なことに決まっている。
一番の元凶は、男が好きな俺だったんだ。
****
…………なんだか、あったかい。
何か…誰かが俺に触れてる?
すごく安心する…。
ずっとこうしていたい。
誰……?
「…カナ……?」
………ナオ?
なんで……ナオがいるの?
ここ、どこ?
なんで寝てるんだ?
俺は……どうしたんだっけ…。
「あ…、大丈夫か?……奏斗」
「……っ、」
「奏斗」と呼ばれて、何かがグサッと刺さり、今までのことを思い出した。
俺は……そうだ、俺はナオにー。
「…今出るから、安心して。北見さん、呼んでくるから…」
ナオは俺を見ようともせず、早口で言いながらここを出て行こうと扉へ向かう。
「今まで、本当にごめん。……もう、関わらないようにするから」
背中を向けたままナオは言った。
……ナオが、行ってしまう。
もう二度とこんなことは起きない。
目が覚めるとナオがいるなんて、もう無い。
本当に関わらない、ただの他人になる。
これで終わりなんだ。
嫌だ!
後ろ姿に手をのばし、バランスを崩してベッドから落ちてしまった。
「どうした?!苦しいのか?」
音を聞いて、すぐにナオは戻ってきた。
それだけで嬉しいと思える。
ナオ、お願い。
これで最後にするから。
振り払うかもしれないけど、本当に最後だから。
「行かないで……」
ともだちにシェアしよう!