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疑心暗鬼と幸福 3
冷たい部屋で蹲っていると、インターホンが鳴った。
誰だ…?
重たい身体を持ち上げるように立ち、玄関に向かう。
ドアを開けて、驚いた。
「あ、よかった。真っ暗だったからいないかと思った」
「なんで……」
スーパーの袋を持ったナオが立っていた。
「夕飯一緒に食べようかって……カナが良ければ」
来てくれた。
「いいけど…なんで来てくれたの?」
「だって、泣いてたから。今も泣きそうだろ?」
「……っ、」
やっぱりナオは分かってた。
「ありがとう……」
ごめんね。
二人で夕飯を食べ、一緒に布団に潜った。
ナオは思っていること、全部言って欲しいと言った。
「不安なら不安だって、怖いなら怖いって言って。嬉しいとか楽しいことだけじゃなくて、嫌なことも。今すぐじゃなくていいから、ゆっくり知っていきたい」
本当に言っていいのかと迷ってしまう。
それでもナオの瞳が真剣だったから、信じようと思えた。
だから「一緒にいて欲しい」と言った。
そして、全部言ってみようと思った。
「…ナオが、どこかに行っちゃうんじゃないかって急に怖くなるんだ……。ナオに『独りにしない』って、…『好きだ』って言われたことも夢なんじゃないかとか考えてしまって……ちゃんと夢じゃないって分かってるのに」
「電話した時も、怖くなった…?」
「うん…寝て、目が覚めて、着信履歴が無いって分かった途端怖くなって……たったそれだけのことなのに、このまま何も来ないかもしれないって、思ったんだ」
何も言わないけど、黙って聞いてくれる。
震えながらも、言葉を紡ぐ。
「ナオに縋ってる自分が、弱くて、嫌になって…」
依存しているようで、これからが怖い。
一度離れたいとか、そんなじゃないけど、弱い自分が出てきていつか重荷になるんじゃないかとか思ってしまう。
ナオはきっと俺みたいに弱くないだろうから、自分一人だけこんなこと考えているんだろう。
置いてかれるようで、それが申し訳なくて、不安なんだ。
振り絞って言った言葉。
ゆっくり顔を上げると、ナオは笑ってはいなかったけど、柔らかな表情をしていた。
「俺も同じこと考える時、あるよ。俺でいいのかなって、今までしてきたことを考えると、カナが離れていくかもって」
「………そう、なの?」
「うん。でもそう思いすぎると、それこそ二度と戻れないのかもしれない。そう考えたら、だんだん不安や迷いがなくなっていってさ」
「これからのこと、全部分かるわけじゃないから考えてしまう時もあるけど、今は考えるよりも、相手のことを信じる方がいいよなって思ったんだ」
迷ってる顔じゃない。
昔と同じ、太陽のような笑顔だった。
「…、そうだな」
確かにそうだ。
相手のことを信じて前を向く方がいい。
ずっと一緒にいれるかもしれないし、別の道を行くかもしれない。
でも先が分からないのは、俺もナオも同じだ。
不安があることを嘆いて恐れるんじゃなくて、抱えながらも生きていくんだ。
いつまでも不安に囚われてたら、前に進めるわけない。
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