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第2話
「んんん、スバルまでそんなこと言うのか〜?」
「だって私、奥さんの気持ちわかるもん。どうせまた奥さんの気持ち考え無いでバンバン言っちゃったんでしょ〜?」
「それはそうなんだけどさ...」
気まずそうに水の入ったグラスに手を出す。
「せっかくゲイでも認めてくれる奥さん見つけられたんだから大切にしてあげないと。ねぇ?」
「今実は嫁が2人目妊娠しててさ」
水を煽るとカウンターに少し強く置いた。
「あら、おめでとう!よかったじゃない!」
「そうなんだけどさ...。やっぱチビもいて、腹の中にももう1人ってなると色々大変みたいでな」
語り始めた吉川さんの話に耳を傾けながら、ちびちびとお酒を飲む久保さんが視界に入る。
頷く表情がとっても優しくて、見とれてしまう。
「俺が支えてやんねぇとって思うんだけどさ。どうしていいかわかんないし、なんか今嫁はイライラ期間みたいで、俺にめっちゃ暴言吐くんだよね…」
はぁー。と盛大にため息をつくと、お水のお代わりを要求してきた。
「簡単なことよ」
「簡単なこと?」
「今日帰ったら、その気持ちを奥さんに伝えればいいんだわ」
ごくごく当たり前のことを助言しただけなのに
吉川さんの表情が明るくなった気がした。
「そうですよ。奥さんもきっとわかってくれます」
微笑んだ久保さんも頷いてくれる。
「スバル...いつもありがとな。久保もありがとう。悪ぃけど俺、帰って嫁に色々伝えなきゃ」
お財布から札を抜き出して久保さんに渡すと吉川さんはさっさと立ち去って行った。
「吉川さん酔ってらっしゃったけど、帰り大丈夫かしら...」
「大丈夫ですよ。目がしっかりしてましたから」
くすくす笑う久保さんのグラスを持つ手の美しさね!!!
あぁ、表情を崩さないように微笑んだままの顔でいるけど、タイプの男を前にすると口元が緩んでしまう私。
お客さん相手にこんな感情抱いてはいけないのに、定期的にどタイプの人がくるんですもの。
「そうね...。表情がキリッとしてたし、大丈夫よね!それで久保さんはまだ飲んでいくの?」
「そうですね。もっとスバルさんとお話ししたいです」
笑うと目が細くなる。
ああん。かわいい。
「そんなことイケメンに言われたら嬉しくなっちゃうわ♪」
「ふふ。スバルさんかわいいですね」
こんなこと言われなれているだろうに、私が少しぴょんぴょんしたくらいでそんな風に笑うんじゃないわよ!
好きになっちゃうじゃない!
「やだわー。おネェにそういうこと言うと本気にするわよー。気をつけなさいねー!」
「ふふっ。はーい」
少し酔っていたからあんなこと言っていたんだ。
動悸を落ち着かせようとする私の顔をまじまじと見つめる久保さん。
「久保さん?」
「あっ、ああごめんなさい。あんまり綺麗だからほんとに男性なのかなって」
「付いてるわよ」
「スバルさん怒ってます?」
「おネェ心弄んでるんでしょう?このイケメン!」
どんなに鎮めたくてもドキドキが止まらない。
かつて私が男子校に通ってうはうはしていた頃のような動悸。
また来ますねと手を振って久保さんは帰って行った。
ノンケのくせに期待させやがって。
それから僕は、彼が来るのを待つのが楽しみになっていた。
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