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第7話

一体どういうことなんだ? 久保さんは僕のことを元から知っていた? 「俺はスバルさんの普段の格好を先に知ってたんです。だから.....」 「え!えっ、え?」 「だからあの日、吉川さんに連れてかれてお店に行ってスバルさんの女装した姿を見て、『あの人だ』ってすぐわかったんです」 うまく久保さんの言葉が僕の頭に入らないのかと思ったけど、何に焦っているのかわからないがいつもの久保さんらしくなく、言葉にまとまりがない。 「あ、あの人って.....??」 「スバルさん、前まで普通に会社員してらっしゃったでしょう」 「え.....」 知られていた。 仕事がうまく回せない、お荷物状態だった時代の僕を、久保さんは知っていたというのか。 「僕が営業課に回されてすぐの年に、課長に連れられて取り引き先に行ったんです。そしたらすごい美人な人がお茶出ししてくれて」 「ちょ、ちょっと待って.....。それが僕?」 「そうです。笑顔が素敵で、会社の皆さんにも人気がありそうでしたから、名刺くらいは交換したかったのにスバルさんの上司の方に邪魔されちゃいました」 僕のどこが人気だって? 事務だし、仕事出来ないんだからお茶くらい入れられるようになれ、とかなんとか言われて渋々お茶を出していた気がする。 名刺.....交換していたかった。 「僕、全然人気とか無かったですよ。友人も居なかったし、会社では事務だからってこき使われてたし」 「ふふっ、スバルさんは全然わかってないなぁ」 「なっ...なに...を?」 近づいてくる彼の唇に目がいく。 「自分がどんな状況に居たか、ですよ。あなたは何人もの人に狙われてたんです。男だからとかノンケだからとか、関係ないんです。俺の会社にもスバルさんを狙ってる人は沢山いましたよ」 外に居る時とは違う、男らしい色っぽさにぼぅっとしてしまい、気づくと僕は壁際に追い込まれていた。 「たしかに、ゲイで女装しているスバルさんの気持ちは俺にはわからないかもしれないけど。でも俺は半端な気持ちでスバルさんに近づいてるわけじゃないです。ちゃんとスバルさんと同じようにドキドキしてます、俺だって。ほら」 久保さんに手首を掴まれ、強引に手のひらを胸に押し当てられた。 「ほんとだ.....」 僕より早く刻まれる鼓動に少し嬉しさを感じた。 久保さんが僕でドキドキしてるなんて。 「俺は男を好きになったことはありません。だからスバルさんより不安です。今こうして少し告白みたいになってしまったけど、僕の気持ちは本当に恋なのか、まだわかってません。振り回すようで悪いですけど、これが俺の素直な気持ちです」 久保さんが僕の手を離した。 手持ち無沙汰になった僕の左手は右手首を擦り始めた。 「...ごめんなさい。痛かったですか」 「あっ、いや...そうじゃなくて...あの...」 再び僕の手を握ろうとした彼の手を払った。 「ごめんなさい.....。僕...やっぱり...帰りますね.....!」 「スバルさん!?」 驚いた久保さんの身体と壁の隙間をすり抜けて、僕はコートと荷物を手に取る。 「お、お邪魔しました!」 逃げるように靴を履き、ドアノブを回す。 「俺、今日もお店行きますから!!!」 奥から久保さんの訴えるような声が聞こえた。

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