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4. ROOM

 ストリートで適当に止めたタクシーに押し込まれ、これって初めて会った時みたいだなとレックスは思った。  違うのは、すでに二人が恋仲であるということ。  ミロは運転手に行き先を告げると、性急にレックスにキスをした。 「ん……っ、ちょ、っと、こんなところで……!」 「どこだろうと構うものか」 「あ、あなたってそんなに嫉妬深い人でしたっけ」  狭い車内には二人の他に運転手という他人がいる。レックスはその存在を気にしたが、ミロはよそ見を許さない。大きな手でレックスの頬を掴んでにやりと笑い、もう一度、噛みつくように口付ける。 「……こんな男にお前がしたんだ」  囁きが甘く耳を食む。レックスはぶるりと身体を震わせた。  この声には弱い。逆らえなくなる。  レックスは何も言い返せないままに三度目のキスを受け入れた。運転手がバックミラーでちらちらこちらを見ているような気もしたが、仕方がない。お気の済むまま、と腹を括って車内に水音を響かせた。  タクシーの行き先はザ・ゴーリング。  ミロが宿泊している高級ホテルだった。  入り口からすでに溢れ出る高級感に臆する必要はミロには無い。数週間の宿泊費など軽く払えるだけの懐があるからだ。彼は慣れた足取りで中に入る。一瞬躊躇したレックスの手を引きながら。  フロントで鍵を受け取って自分の部屋に戻るまで、二人は無言だった。  しかし部屋に入った途端、ミロはレックスを壁に押し付けてまた強引なキスをした。今度は唇を奪うと同時に、レックスの細い腰にも手を這わせる。指はすぐに服の下へと侵入した。外気に晒されていたミロの指先は冷たい。それに背中を撫で上げられて、レックスはミロの身体を押し返そうとした。そんなことは不可能だったが。  ズボンに手がかけられる。脱がされる、と思ったレックスはミロが唇を離した隙をついて顔を逸らした。そうすると今度はこめかみから耳、頬、首筋へと熱いキスが寄せられる。 「んっ、ん……、ミロ、怒ってる……?」 「いいや?」  レックスの細い問いかけに、ミロは笑う。 「キスしたら忘れた」 「ばか……。あっ、ちょっと」  ベルトをしていなかったズボンは簡単にずり下ろされた。尻が半分ほど見えるまで下げられ、レックスはとんとミロの胸板を叩いた。 「立ったままは嫌」 「ふむ。お仕置き、という意味では良いかもしれんな」 「怒ってないって」 「怒ってないが?」 「……そういう性癖、どうかと思います」 「ふふ、お前に軽蔑されるのは癖になる……」  ズボンを脱がせようとしていた手はそのままするりと尻を撫で、細腰を掴むと強引にレックスの身体を反転させた。  ミロに背を向けさせられたレックスの下肢に、硬いものが押し当てられる。 「選ぶといい、私の可愛い子ウサギ。今ここで優しく犯されるか、シャワールームで手酷く抱かれるか」  分かりやすく欲情の昂ぶりを示されたレックスは思わず熱い吐息を漏らした。今まで散々に教え込まれた快楽を思い出す。それに加えて、わざとらしく耳に注ぎ込まれた低い声。ぞくぞくと身体が疼いてしまう。返答を急かすように腰を揺らしてくる変態的な恋人を恨めしく思いながらも、その剛直に貫かれること期待する。  ダメ押しとばかりに両手首を掴まれ、わざときつく締められた。  背後から覆い被られて、手の自由まで奪われて。そんな受け身の状況でレックスの気分が高まることを知っている、狡い恋人。 「シャワールーム……」  自ら場所を選んだレックスは、ミロの腕によってシャワールームへと連れ去られた。 「あ、ぁっ」  ガラスで仕切られた狭い空間で、身体に熱いシャワーを浴びながらレックスは喘ぐ。壁に手を付く彼は浴びせられる湯より熱い手に腰を捕らえられ、じっくり丹念に解された後ろの蕾に衰え知らずの剛直を突き入れられていた。  スカイブルーの瞳はすでに蕩けている。真っ白な肌は赤くなりやすく、ミロに強制的に後ろを向かされた顔は額まで色を変えていた。こもる蒸気と高鳴る鼓動。呼吸には息苦しさが滲む。 「み、みろ、っ……、あつ、い……っ」 「ああ、熱いな」  たっぷりとローションを使われた後孔は滑りが良い。思いきり突き上げられれば肌と肌がぶつかる音がシャワールームに反響する。  奥の奥を刺激され、レックスは腰を逸らせて感じ入る。 「は、ぁ、は……っ、ぁ、ぁん、んっ、はぁ」 「ふっ、意識、飛ばすなよ」 「っ、り、むり、ぃ……、あっ、みろ、……っね、が、……ちょっと、きゅ、けい……っ」 「辛いか?」 「ふ、ぅ……っ、むりぃ……」 「分かった」  ミロは素直に頷くと動きを止めた。  一物はまだレックスの中に残したまま、片腕でシャワーを止めてガラス戸を開ける。逃げ場を得た熱気が外に流れ出し、代わりに冷気が二人の身体を包み込んだ。熱中症のように赤い顔のレックスは安堵の息を吐き出す。ミロの絶倫に付き合って意識を飛ばしたことなら何度もあった。それほどに強く求められることも、正直に言えば好きだけれど。  できることなら座り込んで休みたいが、それはミロが許さない。自分の中にあるモノがまだ大きさも硬さも保ったままであることにレックスは気付いていた。  まだ満足はしてもらえないらしい。 「はぁ……、……遅漏……」  恨めし気にぼそりと呟くと、楽しそうなミロがレックスの頬に唇を寄せる。 「なんだ、もっと酷くされたいのか?」 「もう十分酷くされてますぅ……」 「手酷く抱かれたいと言ったのはお前だろう」 「シャワールームって言ったの、俺は。廊下を汚したくなかったから、……んぁっ」  お仕置きのように腰を動かされ、さっきまでの律動を忘れていない身体は如実に反応してしまう。レックスはミロの逞しい腕に抱きこまれ、熱いと文句を言いながら身を捩る。  触れ合っている肌が、火傷してしまいそうに、熱い。 「……例えば、ここを可愛がってみるとか」 「あっ、やだ……!」  レックスの性感を高めに高めたミロが次に苛んだのは、薄い胸の頂だった。  赤く尖ったそこを、ミロはぎゅっと指で挟んで押し潰す。脱力しかけていたレックスは途端に背を反らして感じ入った。 「んん……っ、ぁ、は、やだ、そこ……」 「お前はここが弱いからな。こう、されたら」 「ひゃ! ぁん、っ」 「たまらんだろう? なあ? どうだ?」 「ああっ、もう、っん、ぁ、ぁ、へ、へんたいぃ……っ」  ミロはレックスの両の尖りを摘まんだまま引っ張り、かと思えばその先端に爪を立てて引っ掻いた。その後で慰めるように、指の腹で優しく擦る。気まぐれに爪を立てる。不埒な指に翻弄されるレックスは純粋な快楽に身を捩った。彼の可愛らしい乳首は立派な性感帯だ。しかも身体を動かすごとに、下肢に埋められたミロの剛直で自らの中を抉ってしまい、それが大きな快感を生んでいく。  柳腰が卑猥に踊る。ミロは心底楽しそうに笑みを漏らしながら、いたずらにレックスを突き上げた。 「あんっ」 「お前は本当にいい声で鳴く」  完璧だ、とミロはレックスが大好きな低く掠れた声で耳を襲う。その刺激にさえ肩を跳ねさせてしまい、レックスはますます顔を赤らめた。壁についた手を離して、胸をまさぐるミロの手を掴む。 「ここ、やだ……」 「好きだろう?」 「ん……、すき、じゃない……」 「こんなに感じてどろどろなのに?」 「んんっ、ミロ……、ぁ、んっ、じゃあ、キスして……」  レックスは首だけで振り向いた。ミロはすぐに願いを叶えてくれる。柔らかい唇を食まれて舌を絡ませて。レックスは蕩けた瞳で、上目遣いでミロを見た。 「胸、感じすぎて、やだ……」 「辛いのか?」 「つら、くはないけど……。もっと他のところであなたを感じたいのに、ここ、こんなにされたら、ん、もったいない……。キス、と、下と、声で、じゅうぶん」 「……可愛いことを言っている自覚は?」 「ぁ、ありますよ、だから素直に可愛がって……」  二人はもう一度唇を重ねた。若く瑞々しいレックスの唇はほんのりと色付き、これで街を歩けば無差別に人を欲情させるだろう。それを奪えるのは、今はこの世界でただ一人、ミロだけだ。  激しいキスが立てる水音はシャワールームに反響する。どちらのものとも知れない唾液がレックスの唇を濡らす頃、ミロは静かに笑ってレックスの頬に唇を寄せた。 「そういう話なら、もう胸は触らない」 「どうも……」 「ああ、お前はなんて可愛いんだ。美しい上に可愛いなんて奇跡のようだ。可憐に咲いた気高い白百合、どれだけ愛しても足りやしない。もっと早くお前と出会えれば良かったのに! 自分の齢がこれほどに憎らしいことはない。お前を目に入れる度にそう思うよ、麗しいレークス、ずっと深くお前に溺れてしまいたいのに、この老いぼれには絶望的に時間が足りないんだ」  こうやって、ミロは時に饒舌に情熱的にレックスの美を褒めたたえる。  レックスはそれを聞いてくすぐったそうに笑い、自ら腰を揺らすのだ。 「貴重なお時間、無駄にはできませんね……?」 「その通りだ」 「っあ、ん」  ミロは半端に入れたままだった剛直を再びレックスの奥へと突き入れた。シャンプーのボトルの隣に置いていたローションを手に取って、中身を結合部へと垂らす。充満していた湯気が逃げていったことですっかり冷めてしまっていたレックスの身体はびくりと震えた。滑りを足されたそこは、また抵抗なく蕾を綻ばせ始める。 「ん、ん……、ミロ、俺、キスは好きですからね……」 「知っているとも。それからこの声も、だろう?」  弱いところを知り尽くされて、好きなもので満たされる。レックスは濡れた髪を掻き上げて、艶やかな唇で綺麗な半月を描いてみせた。  ミロの腕が、またシャワールームのガラス戸を閉める。  反響を始めたのは水音と、悩ましいレックスの嬌声だった。

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