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第3話
すらっとした体躯によく似合うスーツは、慌ててきたことを物語るかのように着崩れていて、清潔感のある髪はやや乱れ気味のその男は、台の上で横たわる姉を見て喉を大きく上下させた。
「あ…難波 さん……」
なんば、そう呼ばれた男は、しかし母の言葉には答えず、姉の手を握りしめた。
「すず、か……起きてよ鈴香、死んだなんて、嘘だよね…?」
握り返すことのない白い手に、薬指に光る指輪がキラリと光る。
「鈴香!どうしてっ…もうすぐで結婚式だねって朝も笑っていたじゃないか!起きてよ、答えてよ鈴香っ…」
そう言って、男は何度も姉に呼びかけた。
ああそうか、この人の良さそうな人が、姉の結婚する相手だった人だろう
視線に気づいたのか、母は小さな声で言った。
「涼真、あなた……鈴香と今度結婚する予定だった難波 真尋 さんよ」
真尋、そういえば姉が時々その名を口にしていた。優しくて、笑顔がかっこよくて、爽やかで、理想の人だとよく顔を赤らめながら話していた気がする。
母の声を聞き、ようやく他の人もいたと気づいたかのように真尋は振り返った。
その時、真尋は涼真の顔を見て、目を大きく開いた。
「え……」
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