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第8話

「やめて下さいっ!」 あらん限りの力で涼真は男からの束縛を突き放し起き上がった。 「何を言ってるのかよくわからないのですが……僕は姉ではなく、お、弟の涼真です!」 そう言って、思わぬ行動に驚いている真尋に涼真は叫んだ。久しぶりに大声を出したので少し息が上がる。口が震えて上手く開けられないが、振り絞るように言葉を続けた。 「あ、貴方は真尋さん…ですよね? 病院で、僕と一緒に、確認したじゃないですか…姉が、交通事故で、」 そう言いながら、ふと、違和感を感じた。 脚に、何も履いていないような心もとない感触なのに、薄い布のようなものが幾重にも重なって絡みつくような。 間違いなく、先ほどまで履いていたジーンズのパンツとは違う履き心地に、思わず視線を落とした。 「…………え」 涼真は、言葉を失った。 視界に入る、花のようにふわりと広がっている薄緑色の布。 そこから覗く、自分の白い脚。 「気づいた?」 ゆっくりと起き上がった真尋は涼真の肩をそっとある方向に変えた。 「鈴香は死んでいないよ」 一面にある鏡に映っていた光景に、涼真は愕然とした。 「だってほら、」 そこには姉の婚約者の男と、 「鈴香はここにいるじゃないか」 ――婚約者に肩を抱かれている、驚いた表情の()がいた。 「どう…いう……」 「驚いた?前に鈴香と買い物に行った時に買ってた服だよ。 元の服は君の家にあるから、通販で新しく買っておいたんだ」 袖にフリルがついた白地のブラウスに、パステルグリーンのフレアスカート。 見覚えがある。これは姉と最後に会った時に着ていた服だ。新しく買ってもらった、と言っていた姉の声が蘇る。 つまり僕は、姉の服を着ているのだ。 「あ……」 そう思った瞬間、背筋に寒気がした。 「はな、せ……」 真尋から少しでも離れようと脚で蹴り後ずさりする。 ずりっ…と腰が落ちるような感覚がした、と思った瞬間、「危ない!」という声と共にぐんと左腕を掴まれた。 「よかった…鈴香は本当に危なっかしいんだから…」

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