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第9話
「ひっ……やめ…」
振り払おうとしてもビクともしない。もがく自分の左手には、姉がつけていたはずの指輪が光っていた。
そこに真尋はそっと、口付けした。
「鈴香……お願い、逃げないで。
愛してるんだ……」
真尋は悲痛そうに囁いた。いくら力を入れても離れない左手が冷たくなり震え出す。
「違う…僕は姉じゃ……」
誰か助けてくれと、そう叫ぶことすら最早できなかった。
ただただ恐怖で体が震えて、何もできない。
「鈴香……」
するりと体を引き寄せられ、真尋にそのまま抱きしめられた。
「愛してる……愛してるよ鈴香…」
先程のような壊れ物を扱うような強さではなく、もう離れるまいとでもいうような、力強い抱擁。
涼真は抵抗する力ももうなくなっていた。カタカタと歯が鳴る。
それを落ち着けるかのように真尋はそっと髪にキスした。
「髪、短くしたんだね……。前みたいに長い方がいいな…そっちの方が鈴香には似合ってるよ」
そう言って、真尋は震える涼真の唇にもう一度口付けをした。
そうして、僕は鈴香 となった
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