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第11話
シャワーが温水に変わっていくと、涼真はいつもの通りに身体を念入りに洗った。その間も決して目を開けない。開けてしまうと、鏡にうつる見たくない自分の姿が否応でも目に入るからだ。
石鹸も何もつけずにただシャワーだけを浴び、涼真は慣れた手つきで所定の位置に用意されたタオルを取って体全体をざっくりと拭った。
涼真が起きるとすぐにシャワーを浴びるということを直接伝えていないのにも関わらず、毎日欠かさず洗い立てののタオルが用意されているのは訳がある。
まだ連れて来られて間もない頃だった。体力が消耗していたせいもあってか、日が昇ってもなかなか目が覚めなかった日があった時、家にある固形電話に真尋が連絡してきたことがあった。
『起きた?ふふっ、11時まで寝ているなんて珍しいね。鈴香のお寝坊さん』
そう言ってクスクスと笑った真尋の声を受話器越しに聞きながら、涼真は背筋が冷えるのを感じていた。
(何故ついさっきまで寝ていたことを知っているんだ)
『朝食はテーブルに置いてあるから、それを食べて置いてね。
あっ、後ろの方に寝癖、ついてるよ』
(今、こうしている間もどこからか見ているのか)
自分の行動は、あの男には筒抜けなのか。
後から聞いた話では、ペットを監視するためのカメラのようなものを設置してあるらしい。
その存在を隠しもせずに言ったのは、カメラの事実を知られたとしても確固たる自信があるからだ。
自分を逃すことはないという、自信が。
その時から、涼真はなるべく音を出さず目立った行動を控えた。
少しでも「姉らしからぬ行動」をしないために。
用意された服を着て
用意された食事を食べ
そして後は、何もせずに時間が過ぎるのを待つ
それが涼真が取れる最善の策だった。
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