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第12話

今日の献立は、こんがり焼けたトーストに青々としたサラダと一口サイズにカットされたリンゴだった。 ラップがふんわりかけられていて、側には箸とフォークがきちんと並べられている。こういう細やかな気遣いもできる所が、きっと姉を魅了させていたのだろう。 もしこういう状況でなければ、きっと自分も、素敵な義兄ができたと思っていたのかもしれない。 だが、現実は。 ぶすりとフォークで刺したリンゴを食べようと口を開けたとき、髪が一筋はらりと落ちてきた。それを涼真はなれたように片手で耳にかける。音を立てて齧ると熟れた果汁が喉奥まで広がる。味わうこともせずに次々とサラダ、トーストと口に入れた。 リンゴは姉が一番好きだった果物だ。 サラダはダイエットを気にしてよく食べていた。 「朝、かっこいい恋人が私より少し早起きして、トーストを焼いてくれるのが理想の結婚生活」と、照れながら姉は言ったことがあった。 きっとここは、姉にとって最も幸せな空間になるはずだった。 しかし、姉が死んだ現実では歪に矯正された鈴香(ぼく)が、用意された空間の中にいる。 サラダの最後の一口を咀嚼し終わったとき、突然固形電話のコーリング音が部屋中に響いた。無機質なその音の残響にあの男の声が被さってくる気がする。 「出ないとどうなるかわかってる?」と。 涼真は力なく受話器を取った。 「……はい」 『あっもしもし?おはよう鈴香』

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