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第13話

電話、と言ってもかけてきたのは今まででたった一人しかいない。 「真尋……くん…」 固形電話は真尋からしか受信できないように設定されていた。自分からかける時も同様に真尋にしかかけられない。 連れてこられた際にスマートフォンや他の通信機器の一切を取られてしまい、家にあるパソコンなどには全てパスワードが設定されているため、家にある固形電話は実質真尋への唯一の連絡手段だった。 『朝ごはん食べてる時にごめんね、今日、多分宅急便が来るってことを一応伝えとこうと思って』 たわいもない伝言、だが宅急便に対し不審な行動を行わないようにという隠れた意図が隠されていることを十分に涼真は分かっていた。 「……わかった」 電話の奥で、難波さーんと呼ぶ若い女性の声が聞こえる。『今行くね』と応える真尋の声をこちらの電話も拾った。 仕事中らしい。真尋は大手商社に勤めている期待の星と姉から聞いていたが、それは本当なのだろう。毎日良さそうなスーツを着ているし、たまに家でも仕事をしている姿をみている。 洗い立てのタオルや日々の朝食を含めた用意周到に準備された数々を見ると、真尋が仕事のできる人だということは容易に想像できた。 からかうように電話の向こうの女性に笑う真尋の声を聞こえた。 「あの、もう切る____」 『掠れちゃってるね、声』 ずん、と身体が一気に床に打ち込まれたかのような感覚がした。手足の血がさぁっと下がり心臓が動く振動が体全体に伝わってくる。 口がはくはくと僅かに動くが、声が出せない。

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