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画面の中のトニ一・レオン。レスリ一・チャン。
彼らはもう自分達がやり直せないことをわかっていたはずなのに、地球の裏側まで来てしまった。
お互いに自分を変えることも、変わる方法も見つからずに傷つけあい異国の暗い街中で生きる。
トニ一・レオンはキッカケを見つけ、それを手に入れるためにブエノスアイレスを旅立つ。
生きベタなトニ一・レオンと、気持ちのままに生きるレスリ一・チャン。
自分勝手なはずのレスリー・チャンがタバコを沢山かって、棚に置いて、つり戸棚の中にまでおいて…毛布にくるまる姿を見て、涙がこぼれた…。
でも一番好きなのは殺伐とした二人がタクシーに乗って・・・、何もいわないのにトニー・レオンがタバコを吸わせてやり、レスリー・チャンがトニーの肩に頭を預ける…。
あのシーンは何かがこみ上げてくるような心を震わせる。
短いけれど彼らの姿が自分に響いた・・・そんな一瞬だった
アキは黙ってテレビを消してカ一テンをあける。
しばらく二人とも押し黙っていた。
「なんか哀しいけど、悲しくなかった。そしてちょっと幸せが見えたから、安心した」
僕はワインをあけてグラスについだ
「トニ一・レオンが不器用なだけなのに、レスリ一・チャンの小悪魔っぷりのせいで、トニ一・レオンが悪い男に見えてしまうくらいだったよ。別に男女に置き換えても成立するスト一リ一だよね
レスリ一・チャンに勝る女優がいなかったのかな?
でもさ、なんかタバコ一杯買って…あの部屋にいるレスリー・チャンには涙がでた…」
同性同士だからこその苦悩はこの映画ではそれほど描かれていなかったような気がした。
これは男女のスト一リ一でもよかったと思う。でもこのレスリ一・チャンほどの存在感、トニ一・レオンが苦悩する様がリアルに感じられるような女優がいるだろうか。ウォン・カ一ウエィはこの二人の男に刹那的な恋愛をさせたかったのかもしれないと思った。トニ一・レオンを騙して連れてきたくらいなんだし。
「異性だろうが同性だろうが、愛情も憎しみも情もあこがれも、ちゃんと成立しているんだよ。
異性間だけのものじゃないんだ」
アキの言うことはもっともだけど、何かいつもと違う雰囲気がする。
「和泉」
「なに?」
「俺はお前にずっと隠し事をしてきたんだ。」
「・・・なにを?」
僕は少し不安になる
「俺は女性と関係をもてるが、根本はゲイだと思う」
僕の不安は驚きに変わり、アキの言葉が宙を彷徨う。
「今まで話さなくてすまん。言わなくてもいいことだと思っていたんだ。でも今この映画をみたらさ、トニー・レオンがやりなおそうっていい続けるのは、自分の居場所がほしかったらだって思えたんだ。だから新しい居場所の可能性に賭けてブエノスアイレスを離れることができたんだよな。そう思ったら、理解してもらえなくてもいいけど、和泉には打ち明けるべきだって思ったんだよ。うまく説明できないけど・・・。
でも、言っておくけど、ノーマルの男性が女性なら誰でもいいというわけではないのと一緒で、ゲイだって男なら誰でもいいわけじゃないんだ。安心しろ、お前は俺の好みじゃないからさ。」
アキはそう言ったきり、目を閉じた。
僕が最初に思ったことー僕はアキの好みじゃないんだ・・・。普通安心する場面なんだろうけど、なんだか少し悔しかった。こんな歳になってもアキの一番だったり特別でありたいという子供じみた独占欲に自分でびっくりする。
アキがゲイ?
そういわれても、僕は何も感じなかった。嫌悪感もなければ、軽蔑もしない。
ただちょっとビックリはした・・・でもそれだけだ。
女の子の話をしたら困ったような顔をするのは、そういうことだったのか。
知らなかったとはいえ、なんか申し訳ない気がする。それに僕の彼女のこともほとんど聞かなかった、僕が気の向いたときに少し話すだけだった。そりゃそうだ、アキは?って聞かれて言い訳を考えるくらいなら、最初からそんな話をしなければいい。
「アキはアキだから、僕と違ったからといって友達だってことにかわりはない」
僕と違ったって、アキに変りはない。
アキは何も言わなかった。
僕もそれ以上いう言葉が見つからなかった。
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