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和泉との出会いは高校1年のときだ。 田舎から都会の街にでてきた俺は、毎週日曜日映画館に足を運んでいた。田舎に映画館はなかったから、テレビのコマーシャルで流れる最新作をリアルタイムでみられることが嬉しくてしょうがなかった。 封切から単館系まで映画館はたくさんあったから、毎週見る映画にはことかかない。 友人と行くこともあったが稀で、映画は一人でみるほうが好きだった。 暗い空間の中で、映画が見せる架空の世界に入り込むのは一人のほうが都合がよかったし、映画館の空気が心地よかったから。 夏休みの半ば頃、お気に入りの映画館が「シネマラソン」というイベントを開催すると知り迷わず参加した。 スタートは19:00。2スクリーンで合計6本の映画を翌朝6:00まで見続ける、文字通りのマラソン企画で映画漬けの一夜だ。 リリアン・ギッシュの若い頃の出演作や、A・アウリスマキのデビュ一作品など、レンタルではお目にかかれない作品ばかり。どの作品もおもしろかったし、夢中になった。 一睡もせずに6本の映画を制覇し朝を迎え、映画館を出るため階段を登る。 地下から地上へ・・・映画の世界から現実へ・・・ 暗い映画館の中でスクリーンを見つめ続けていた目に、太陽の光は眉間が痛くなるほど強烈に白かった。 一その白い光の中に和泉が立っていた一 大きな茶色の瞳とぶつかったとき、自分の中でコトリと音がした。 たぶん長い間相手を見続けていたのだろう。 少し首をかしげて不思議そうにこちらを見て相手は言った。 「コーヒー飲みたくない?すぐそこのドトール開いていたかな?」 一瞬自分に言われたのかわからなかったが、相手の不思議そうな表情が訝しげな視線に変わったとき、ようやく返事をしないと彼が行ってしまうことに気がついた。 早鐘のように打つ心臓は自分にしか聞こえていないのだと言い聞かせる。 映画館で過ごしたせいでボーとしているのだと思ってくれることを期待して、意識的にぶっきらぼうに返した。 「俺はアイスティーかな。一緒に行くよ。」 一緒に行くよと言っただけで、告白でもしたような恥ずかしさを覚える。 自分は同性にしか興味を持てないのかもしれない・・・、いや、そんなことはない。 そんな自問自答を繰り返すのに答えが見つからず、またそれを認めることを先延ばしにしている時期だった。 「君もシネマラソンに参加してたよね。2スクリーンをいったりきたりして、なんか皆一体感があったというか、仲間みたいな感じがしなかった?」 コーヒーをおいしそうに飲みながら聞かれた。 正直映画館に入ったときから映画の空間に入り込んでしまっていたから、参加者の一体感みたいな感覚はまったくなく、気がつきもしなかった。 「いや、自分は映画にばっかり意識が向いていたから気がつかなかった・・・。」 本当はそんなに好きじゃないアイスティーをすすりながら答える。本当はコーヒーが飲みたかった。 とっさに口からでたアイスティーという単語が恨めしい。 向かいの男は少し大きめの長袖のTシャツとジ一ンズだった。きれいなブル一のTシャツは白い肌と茶色の瞳に映えている。170cmに少し足りないくらいの身長だろう。 どうみても男なのだが、不思議な雰囲気のせいか心臓がザワザワする。 「大人の人が多かったから、なんとなく不安だったんだけど、君がいたんでちょっと安心したんだ。 君は僕とは逆の順序で見ていたみたいだから同じスクリーンにはいなかったと思うけどね。 うわ~本当に朝だよ!と思っていたところに君が不機嫌そうな顔をして階段登ってきたから、声をかけちゃった。いつもは知らない人には話しかけないんだ、面倒だから。 でも君に声をかけたのはシネマラソン参加者の一体感ゆえかも、ね」 窓の外を見ながらのんびり話す相手を見て自然に言葉が口をついて出た。 「君の名前は?」 一瞬驚いたように目を見開いたあと、可笑しそうに俺の顔をみる。 「唐突だね、僕は和泉。和泉桧といいマス。和と泉でイズミ、木ヘンに会うでカイ。」 「いず・・み。」 「苗字だと女子みたいだろ?だからカイって呼んでもらうようにしてるんだけどさ、そういう君は誰?」 「あ、ごめん。俺は佐々木晶。普通の佐々木に、日が3つのアキラ。」 「なんか佐々木って君っぽくないな・・・。じゃあこうしよう、僕のことはイズミでいいよ。 そして君のことアキって呼ぶことにする。女の子っぽくなるからイズミとおあいこだ。」 この日から映画をみる時、つねに和泉が隣にいた。

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