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「色々な意味で最悪だわ。」 相変わらずの辛らつさで沙希が俺に向かって話している。 どこかぼんやりした俺はそんな沙希の顔をみながら、思考を宙に彷徨わせていた。 和泉の彼女と遭遇したこの店は俺の一番気に入っている和食の店だ。 どんなことがあったとしても、ここの料理を諦めることができない。そして今日も沙希が目の前にいる。 でも和泉はいない・・・。 「お前最悪って・・・。」 「だって、続編がいるのかって話にならない?」 「まあ、確かに。」 「結局はチャウの再生物語なわけだけどね。 『手のひらから零れ落ちたものは二度ともう戻らないのだ』ってことに気がつくのにキムタクは必要だった?」 「・・・。」 「古傷だとおもっていたのに、塩を塗りこめられてみて未だグジュグジュの生傷だって思い知らされただけでも、見たかいがあったわね。」 意地悪そうに微笑む沙希に怒ることもできなかった。 珍しく映画に行こうというので誘いにのったら、この有様だ。 俺だって違うだれかと映画をみてもいいだろうと思ったし、映画の存在が消滅しない限り、和泉との関係は続くと信じていた俺はもういない。 3年もほっておかれたら誰でもそうなるだろう。 メ一ルの返事はこなかった。電話にもでないし折り返しもこない。その意味くらい俺にもわかる。 何にせよ最後に会った時、俺は「どうした?なにがあった?」と聞くことができず、和泉を失った。 自分の想いが相手に伝わり、去っていったのだとしか思えなかった。 あいつなりの決別、拒絶、拒否、まあ、なんでもいい。 俺は振られたのだ。 3年の間に心の中の鋭く硬い塊を少しずつ砕き、かけらを血の中に放ち、体の中をめぐらせて蒸発させてきたのだ。 もう心の中には砕いたときにできた僅かな傷しか残っていないはずだった。 でも違ったことに気がついてしまった。自分でもわかっていたのに沙希がさらに追い討ちをかける 「佐々木。『手のひらから零れ落ちたものは二度と戻ってこない』とウォン・カ一フェイは言いたかったみたいだけど、あなたは手の平にも乗せていなかった。相手の手を握ろうともしていなかった。だから手を離された。私は言ったわよ、不毛なことはやめなさいって。結局あなたはさらに3年不毛な時間をのばしただけよ。」 「俺だって映画の途中からムカムカしてたんだよ。言われなくてもわかっている。」 「いいかげんケリつけたら?私の大事な友人が不毛な男っていうのは耐えられないのよ。 あなたこの3年で凄みをましたというか、トニ一・レオンに負けない憂いと陰りを身に纏っていい男になった。それでなびかないならしょうがないわよ。そのときは私があなたの子供を生んであげるわ。」 そういって微笑む沙希の瞳は柔らかかった。 和泉の茶色い大きな目が恋しい。 俺の心の中の硬くて鋭い塊は、砕かれもせず、相変わらず鈍く光り続けている・・・

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