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「もともと3年という約束だったから僕の期限は終わろうとしていた。結局逃げたのに、また元に戻らなければならない。休みの日、街中をぶらぶらしていたらトニ一・レオンの新作が上映していた。 避けて通りたいところだったけど、やっぱり見てしまったんだよ。 また熱をおびた視線のチャウを見たかった。でもチャウは誰のことも見ていない虚ろな視線を複数に投げかける男になってしまっていた。 なんだか腹がたって・・・。こぼれたものはもうつかめないと言われても、僕には納得できなかった。 本当の意味で諦めることがどんなに難しいか、この3年で思い知ったから。 帰ったらアキに会いに行くことに決めた。 正直に言おう・・・と思った。 12月の慌しいときに話すことじゃないと思ったから今日までまったんだ。 アキ、僕は・・・。アキに拒絶されない限り、諦められないんだ。 僕にはアキが必要なんだ。」 和泉? 俺は何かいっていいのか?手をつかんでいいのか? 心の底に沈めることだけをしてきた長い年月。この塊を引き上げていいのか? 俺には信じられなかった。そんな簡単に信じてしまったら、零れてしまいそうだった。 目のまえに灯った和泉という光が消えてしまうような恐怖を感じる。 そうだ、ここで失ったらと思ったら俺は初めて恐怖を感じた。 抉られるような、強い感情 「でもお前は、俺が頬に触れたら、顔を歪めた。俺はやはり拒絶されたんだと悲しくなった。ものすごく。」 和泉は苦々しい目で俺をみて強い語気で言う。 「だって、それはアキのシャツをつかんでいた、あの男にアキがしていたことだったからだよ! 寒くて寒くて、体中が痛くなるほど寒かった僕にアキの手は暖かかった。 暖かいのに僕のものではないんだよ! あの男にはくれてやったアキの手のひらじゃないか。僕は今まで貰ったことがない、アキの手がこんなに暖かいのを僕だけ知らなかった!」 和泉の瞳から一滴涙が零れた。 俺は、俺は和泉だけは泣かせたくなかった。他のやつらがどんなに泣いてもどうでもよかった。 胸を抉る激痛にも似たよじれは誰にも感じたことがなかったものだ。 和泉の涙は俺の心臓を壊しそうだ。いや壊れてしまう。 「アキは優しいから、同情で僕を受け入れることもできるだろう。でもそれは嫌なんだ。 だから僕がだめなら正直に言ってくれよ。 そしたら僕は今度こそ、引き返すことができると思うんだ。」 「だめだと・・・?」 「僕はその他大勢になるくらいなら、この思いを削り取ってでも一人でいることを選ぶ。 いや、削り取ってみせる!」 目は真っ赤なのに、そうきっぱり言い切る和泉は強くて美しかった。 そして俺の好きな透き通った綺麗な瞳だった。 俺は体の力が抜けて、そのままズルズルと背中が壁を滑り落ち、床に仰向けに転がった。 冷たい床に背中が触れたのをキッカケに、俺の心がこぼれた。 俺は泣いていた。 和泉は俺の顔をみてビックリして壁から身をはがす。 アキ?といいながら床を四つんばいになって這ってくる。 そんなあわてた姿でも綺麗な和泉・・・ 俺はばかみたいに幸せだった。 過去の自分に大丈夫だから和泉を思い続けろといってやりたい気分だった。 涙がとまらない。 「なんで泣いてるんだよ、アキ。僕まで泣きそうだ。」 泣き笑いの和泉は僕の頬に触れながら囁く。 「アキの涙を都合よく解釈しちゃうよ。」 涙は自分で止められないんだな、そう考えながら俺は頼んだ。 「俺にキスしてくれ。そしたら。俺は信じることができる・・・。」 涙で濡れた瞳をこぼれるような笑みで飾って ついばむようなキスを俺に落としてくれた。 俺はようやく止まり始めた涙を笑顔に変えて、ずっと沈めたままだった箱をあける。 白い光の中で和泉を見つけてから初めて自分の心を開け放った。 「いずみ、お前をずっと・・・」 永遠に続くとあきらめていた片思いに終わりがきた。 頬に寄せられた和泉の手に自分の左手を重ねる。 ようやく、手を握ることができた・・・。 END

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