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結局中村を説得できなかった僕は、ここに一人で来た。 受付でチケットをだしプログラムをもらう。青一色で刷られた紙には映画の内容と上映時間が説明されていた。2つのスクリ一ンで上映される映画の時間をみて、どの順番でみるか組み立てる。 こういうのってワクワクする! 周りを見回すと、自分と同年代の人間はほとんど見ない。全体的に大人の人だし、一人できている人がほとんど。やっぱり子供は一人が不安なんだよ、僕だって中村誘ったもんな。 トイレに行って、席につこうとしたところに、販売コ一ナ一で熱心にパンフレットを見ている後姿に目が留まる。映画見る前にパンフ買うのかな、見終わった後のほうがいいと思うけど。余計なお世話なことを思っていたら、彼が係りの人に聞いている声が聞こえた。 「ストックはどのくらいあるんですか?」 「20~30くらいですかね。」 「見終わってから買おうと思っていたので、じゃあ、気に入った映画だったらすぐ買いにきます。 ここはずっと開いてます?」 「はい、大丈夫ですよ。今回のプログラムは結構珍しいものが多いので、手に入りにくいパンフが多いから、是非どうぞ。」 「ありがとうございます。」 へえ、そうなんだ。人の話しを聞いて欲しくなることってあるじゃない?僕も気に入ったら買うことにしよう。 係りの人に丁寧に礼を言っている彼が振り向いた。僕とそんなにかわらない様子に驚く。 在庫のことまで頭がまわるくらいだから大人かと思っていたから。 たぶん、この企画に参加することを一人で決めて一人できたんだろうな。 彼は僕と正反対の人だった。スッキリした目元と男らしい雰囲気。絶対かわいいなんて言われたことがないだろう。ざっくり着ているただのTシャツ姿すら格好いい。 絶対あえて一人で来たんだ。僕とは大違い。 勝手な想像をしながら自分の組み立てたスケジュ一ルをこなすため、席にむかった。 映画漬けの幸せな一夜が終わった。 身体はだるいのに神経だけが起きていて、自分の身体が借り物みたいな感覚。 おなかもすいているような気がするけれど、コ一ヒ一が飲みたい。 このまま家に帰って寝てしまったら、この充足感が消えてしまうような気がする・・・。 やっぱりムリヤリ中村を引っ張ってくるんだったな。誰かとこの気分を共有したい。 階段を昇って外にでる。暗闇に慣れた僕の目は太陽の日差しに眩んで、何も見えなくなった。 オデコが痛い・・・。オデコと眉間を指でさすって薄目をあけて時計を見る。 朝7時すぎ。ドトールなら開いてるかな? 思いっきり伸びをしたら気持がいい。 目的地に向かうために方向を変えたら、映画館の階段を昇ってくる「彼」が見えた。 あれ?パンフを一冊も持ってない・・・。僕はなんだか少し不思議な気がして心持ち首を傾けた。 相手はそんな僕を見ている。眩しそうに少し目を細めて僕をみている。 「コ一ヒ一飲みたくない?すぐそこのドトール開いてたっけ?」 僕は自分が信じられなかった。人見知りの僕が自分から呼びかけていた。 声をかけようなんて全然思っていなかったのに、自然に口をついて言葉がでてしまった。 彼は何も言わない。 ちょっと気詰まりな沈黙が二人の間に降りてきて、急に恥ずかしくなった。 声をかけて反応がないって、ものすごく恥ずかしい。 なかったことにしてこのまま一人で行こうと思った。 「俺はアイスティ一かな。一緒にいくよ。」 背を向けようとした時、彼は残りの階段をあがりきり、僕と並んで歩きだした。

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