81 / 115

バレンタインSS 7 朝の君

 手を伸ばして、俺の首にしがみつく白い腕にキスをした。少しだけ吸って、二の腕の内側、冬のこの時期なら見える心配のないそこにキスマークをひとつつけた後、しがみつく君が疲れてしまわないよう、背中に手を回して支える。 「頭の中で、たくさん、してもらったんだ」  ぎゅっと密着した状態だから、その声が耳元で乱れた呼吸と一緒に聞こえて、ゾクゾクした。色っぽく掠れて、奥を突かれる度に一瞬だけ吐息に変わるのが、すごい破壊力。 「一人で、する時ね、妄想の伊都にいっぱい、してもらった」  君のオカズにしてもらえた俺は、君の頭の中でどんなやらしいことしてたの? 「けど、本物の伊都にしてもらって、ど、しよ」 「ちょ、日向っ」 「あ、やぁぁぁっ……ン」  日向の甘い言葉にぶわりと更に強度を増すそれ。中でもっと暴れたいって熱を増したそれに小さな悲鳴を上げて、君が手を伸ばた。  孔の口をいっぱいに広げて自分が飲み込んでいるペニスの太さを確かめるように指で触れて、びっくりした? それとも嬉しい? 「ひな……」 「指じゃ、やだ」 「……」 「伊都の、がいい」  俺の、気持ちイイ? 「ずっと、大きくて、熱い、伊都のがいい」  俺は。 「伊都、好き」 「……」 「もっと、して……伊都」  俺は、どうにかなっちゃいそうなくらい、気持ちイイよ。 「あ、あ、あぁぁぁっン、伊都っ、ぁ、やぁ……ン」 「日向」 「伊都に名前呼ばれるの、好き」  そう? それなら、たくさん名前を呼ぶよ。俺は君の名前だってとても好きだから。 「もっと呼んで、日向って」 「日向」  そこで嬉しそうに微笑まないで。腕の中でセックスに揺さぶられながら艶めいた唇で返事をしないで。危ないよ。俺、すごくすごく我慢してたから。 「きょ、う、あんましゃべんない、ね、伊都」  さっき、会った時はたくさん話したのに、今はあまりって、心配そうに頬に触れる。 「ずっと、したかったから、もう夢中っていうか」 「ホント?」  もちろんだよ。本当にホントって息を切らしながら答えると、また笑って、腕でしがみついて引き寄せる。 「嬉しいっン、ぁっ」  本当だよ。だって、俺は君のこと。 「あ、ンっ、好き、伊都っ、もっと、して」  どうにかしちゃいそうなくらい、好きだよ。 「日向、平気? その」  立てる? っていうか、歩ける? おんぶしていけば大丈夫だけど、でも、ビジネスホテルからうちまでおんぶで朝帰りって、ダメだよね。 「平気だよ。そんな顔しないで、伊都」  まだお互いに裸。俺は一応パンツくらい履いてるけど、日向はベッドの中で膝を抱えて、座って、そして笑ってる。クスクスと、反省しまくりの俺を見て笑ってた。 「ごめ、って、イタタタ」 「やだ。謝るのなし」  ぷぅ、って効果音が世界一似合うだろう白くてピンクな頬を膨らませて、怒った顔で、心配で覗き込んだ俺の耳を引っ張る。けどさ、その声は砂糖よりも蜂蜜よりも甘い喘ぎを続けたせいで掠れてる。 「俺がもっとって言った」 「けど」 「もっとって、俺が言った」 「……」  そう言われた。けど、言われなくても、たくさんしちゃってたよ。ずっと触れたかったから。君に「今日は疲れてるからご飯だけね」なんて余裕ぶったこと言っておきながら、ずっとしたかった。君にカッコいい分別のある大人の男って思われたくて、我慢しまくってた。だから、その反動が出ちゃって、歯止めなんて効かなかった。 「伊都は……あんま、だった?」 「え? な、なんでっ」 「だって……」  膝を抱えて君がぽつりと呟く。なんか、無言だったって。セックスの最中、なんにも言わなかったからって。 「気持ち良くなかったのかなぁって」 「ち、ちがっ」  そうじゃないんだ。慌てて否定する俺をじっと、疑わしいと真っ直ぐ見つめる。 「その、日向に会えない間、ずっと日向のこと考えた」 「……」 「ずっと、その、したかったから、もう夢中っていうか」  声、表情、肌の感触、抱いた時の身体の細さ、しなかやさ、それと柔くあったかい君の中。夢中になりすぎて、無言って、どんだけって感じだけど。 「本当に?」 「本当に」 「本当の、本当に?」 「なんなら、いくらでも証明できるよ」 「わっ!」  押し倒すと、いとも簡単に組み敷かれてしまう君の儚さに、やっぱり罪悪感が少し滲んでしまう。手荒にしてしまったかもしれない。傷はなかったけれど、それでも無理を強いてしまったかもしれない。  昨日のセックスの最中みたいに君の細い腕が首にしがみつく。もう朝で、外では町が動き始めてる。白い腕が朝日に照らされて眩しい。 「ね、わかった? 日向、待ってて、今、水を、って、わっ、ちょっ」 「……して? 証明」 「日向っ」 「して」  ぞくりとした。  朝日の中、白い肌に点々と残る自分の痕が鮮やかで。 「日向」 「したい……」  そのうちのひとつ、腕のところに刻んだキスマークに、君がキスをした。 「ぎりぎり、まで、してたい」 「ひな」 「名前、たくさん呼んで、俺のこと」 「っ」  またしばらく会えない。遠恋じゃないけど、そのくらいあんまり、今は、抱き合えないから。 「次、会える時まで、伊都の声思い出して、するから」 「っ」  じゃあ、俺は、昨日一晩夢中になって追いかけた艶姿の君と、それと、朝日の中。 「あ、ぁっ……ン、あぁぁぁっ」  俺を襲ってくれるキスマークをたくさんくっつけたやらしい君を思い出すよ。 「ぁっ……ン、や、だ、そこ、触っちゃったら、」 「日向」 「ぁ、ぁ、あっ、ああああああっ」  俺のを奥深くまで咥えながら、俺の手の中でイっちゃう、やばいくらいにやらしくて可愛い朝の君を妄想する。 「あっ……ン、伊都っ」 「日向」  洗濯、俺の係りにしてもらってもいいかもね、なんて思いながら、愛しい君にまたキスを、した。

ともだちにシェアしよう!