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クリスマス編 3 ふわふわ

 今日は十二月で一番寒いんだってさ。お天気予報で言ってたよ? だから――。 「あっ、ン」 「日向、足、外出しちゃダメ」  だから、裸の君が風邪を引いてしまわないように、二人で毛布に包まったまま抱き合おうよ。さっき着たばかりのパジャマを捲ると、君がぶるって震えた。 「寒い?」 「ん、ちょっと、寒い」  だよね。夜になったらグンと冷えてきた。  だから、二人でずっと包まってる毛布でしっかり包んで君のことを引き寄せる。細い腰を両手でぎゅってしたら、あったかいから。 「ン、伊都」  みぞおちのとこの少しだけへっこんでる箇所に口付けると、毛布を肩からかけた日向が、その毛布の端をぎゅっと握ったまま、背中に手を回してくれた。  ぴったりくっ付きながら、心臓のとこ、ずっと首から下げているペアの指輪にもキスをした。 「あ、そうだ。ね、伊都」 「?」 「あの、ね?」  君がすとんと俺の腰のとこに座り込んで、自分の胸にあるネックレスをパジャマの襟口から引っ張り出した。 「これ……指に、しようかなって」 「……」 「あのね、シャンプーとかする時、お客さんの顔に当たっちゃったら大変でしょ? それに、それにさ」  俺はずっと指にしてた。日向はずっと首から下げてた。  君は恋愛対象が同性であることで、ひどく悲しい気持ちになったことがあるから。 「指に、するなら、伊都にしてもらいたいって思って」 「……」 「あの……」 「いいの?」 「うん」  小さく君が頷いた。  そして自分の右手薬指をそっと撫でた。俺が指輪をしている場所と同じところ。 「だって、もう話してる、し」 「職場の人に?」 「ん、ほら、俺が体調悪かった時に、伊都来てくれたでしょ? あの後、スタッフの女の子に、伊都のこと訊かれてね」  あった。もうけっこう前の話だ。学校もあってインターンシップで今のサロンにも通ってて、めちゃくちゃ忙しかった時、君は少し頑張りすぎて体調を崩したんだ。俺はその時ちょうど君を迎えに行ってたから、駆けつけることができた。 「カッコよかったって言われて、慌てて、そしたら……気がつかれちゃって」 「……」 「今日も、嬉しそうにしてるねって、言われた」 「……」 「彼氏さん? って…………訊かれた」  だから、「うん」って頷いたと君が頬を染める。 「平原さんにも、俺のこと話してくれたんでしょ? 伊都」 「……」 「お、俺も、職場で伊都のこと話したり、するし、もう」 「……」 「もう、伊都じゃなくちゃ、や、なんだし」  両親からクリスマスプレゼントをもらったけれど、俺たちはまだお金なくてさ。プレゼント交換をするよりも、絶対に絶対に、このクリスマスを二人で過ごすことにしようって、話したんだ。  一緒に料理を作って、一緒に食べて、ただ二人で過ごしたいねって。  それが一番嬉しいことだから。 「もっ、もぉっ! なんか、しゃべってよ。伊都っ」 「だって……」  二人で過ごすだけで充分なのに、君がもう一つ俺には特別なクリスマスプレゼントをくれるから、感動しすぎて言葉を失っちゃったんだ。 「ちょっと怖かった」 「うん」  寒くないように、毛布の中でごそごそと手を動かして、君のうなじの辺りを探る。 「話す時、声がひっくり返った」 「うん」  髪が絡んでしまわないように。丁寧に、チェーンを指で外した。 「そ、その子ね、伊都のこと好きになっちゃうかもじゃんって、慌てて、そしたら、笑われた」 「へぇ」  チェーンからスルリと落っこちたシルバーのリング。 「慌てた俺見たの初めてだって」 「うん」  高校三年の時、それぞれの道を進みつつ、隣にはいつも君がいることを誓うためにって買ったんだ。高級品とかじゃないけれど、高校生の俺たちが背伸びして買った、大事なシルバーの指輪。 「可愛いって言われたなかった?」 「……」 「え、もしかして、言われた?」 「女子に可愛いって言われても、あんま嬉しくない」  右手、ね。 「え、じゃあ、男子?」  ほら、あの、チーフマネージャーだっけ? 高校生の日向に何度も電話してきてたじゃん。俺、あの日向が倒れた時ちょっとドヤ顔しちゃったもん。威嚇っていうかさ、俺が彼氏なんで、ってめっちゃ主張した顔した。絶対あの人、日向のこと狙ってたでしょ? 「違うってば、可愛いなんて」  右手の、薬指。 「伊都に言われたいだけ」  君は俺のものっていう、ドヤ顔代わりに指輪を。 「伊都、だけだし」 「……」  俺は、日向の、彼氏ですよっていう、印の指輪を。 「……なんか、くすぐったいね。指輪」 「すぐに馴染むよ」 「うん」  君が笑って、俺を抱き締めた。あったかくて、毛布のふわふわしてるのが背中にくすぐったくて、うっとりするほど優しい。 「あったかい? 伊都」 「うん。日向は?」 「あったかいよ」  優しいキスをして、裸になったら寒いから、二人でぴったりくっついて、互いの体温の心地良さに蕩けてた。

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