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クリスマス編 5 メリークリスマス

 お父さんと睦月と過ごす二回目のクリスマスだったのを覚えてる。  なんか、お父さんがずっと嬉しそうに笑っててさ、睦月もなんか嬉しそうで、俺は幼心に、二人のところにもサンタが来たんだって思ったんだ。  よかった、俺のところだけじゃなかったんだーって、二人が嬉しそうで嬉しいなぁって思ったんだ。 「……おはよ、伊都」 「おはよう、日向」  朝の挨拶をして、君がくしゃっと笑った。 「日向、寒くない? そっち布団からはみ出してない?」 「ううん」  君は首を振って、そして、居眠りを続ける猫みたいに丸まりながら、俺の胸のとこに顔を埋めた。 「……伊都、あったかい」  あったかいのは君のほうだ。ぎゅってくっつくとあったかくて、とても心地いい。君の体温はとっても気持ちイイんだよ。  抱き締めて、目を閉じた。今日は火曜なんだ。俺は冬休みで、美容師をしている日向はお店が休みで、それで、それで、エアコンは壊れてるから布団から出たらめちゃくちゃ寒くて。ゆっくりのんびり寝過ごす朝も素敵だなぁって思って、このままもう少し寝ようかなぁって目を閉じたところだった。 「日向?」  君が腕の中で小さく笑ってる。  名前を呼んだら、顔を上げて、じゃじゃーん、なんてはしゃいで手を見せつけてくれる。パッと開いた手。白く細い指、昨日俺の背中をたくさん引っ掻いて、たくさん抱き締めてくれたその右手の薬指に笑顔が零れた。  だから、俺もその掌に掌を重ねる。右手と右手だから、手を繋いでるみたい。そのまま君の手を俺のほうに引き寄せて額をくっつけると、嬉しそうに目を細めた。  ずっと胸のところにぶら下げてた。  そこなら周りには見えないから。 「ね、ここにずっとしてたら、日焼けとかするのかな。ここだけ白くなったりとか」 「んー、無理じゃない? 日向はそもそも色白じゃん」 「えー」  頬を膨らませて、不服だと零す君の指に、これからずっとその指輪があるんだ。  誰からもわかる場所に、君を想う、君が想う、誰かがいるという印の指輪が。 「えへへ」  君がその指輪を見て、また顔を綻ばせる。  その笑顔が、似てたんだ。  ――おとおおおさあああん、いってらっしゃい!  睦月もいて、三人で過ごす二回目のクリスマスだった。  朝からウキウキしてた。その日の夜はクリスマスパーティーで、その次の朝にはきっと絶対に、色とりどりのスライムセットが枕元にあるに違いないって、そわそわして。  お父さんは仕事で、睦月は休みで、俺も睦月と一緒にお留守番。一日睦月と一緒に、そのパーティーの準備をしてたのを覚えてる。  お父さんが仕事に行く時だった。  ――あ、千佳志さん。  ――?  ――……いってらっしゃい。  頬にキスをしたんだ。睦月が、お父さんの頬に。  二人が好き同士なのはわかってた。男同士だけれど、二人の関係が「恋人」っていうものなのも、家族みたいなこともわかってた。  でも。その朝から少し違った。  好き同士の二人が、好きを隠さなくなった。露骨にイチャイチャするわけじゃないよ? でも、手を繋いだりするようになったんだ。  何があったのかは知らないけれど。 「? 伊都?」  なんとなく、ちょっとあの時の二人に何が起こったのか、わかるような気がする。 「? 何、伊都、なんで笑ってんの?」  今、君が見せてくれた笑顔は似てたから。 「ねぇ、なんで、ちょっと、伊都ってば」  あの日の朝の、お父さんに、睦月に、似てる。 「んもー、寝癖がついてるとか?」 「ううん」 「違うの? じゃあ、なんだろ。涎垂らして寝てたとか?」 「ううん」  何がおかしいんだろうと首を傾げる君が可愛いって思っただけ。 「日向のことが好きだなぁって思っただけ」  世界中に言いふらして周りたいなぁってさ。 「……俺も、好きだよ。伊都のこと」 「うん」 「大好きだよ」 「うん」  腕の中で君がふにゃりと笑った。そして、ぎゅっと俺にしがみついて「変な伊都」って小さくぼやいた。寒いから布団の中でもぞもぞと、二人で大きな山になって、二人の体温だけでぽっかぽかなここで笑い合う。 「日向?」 「んー……今日、静かだなぁって……思って……」 「日向、寒いから早く布団に……」  日向が窓の向こうを見てた。カーテンの隙間から顔を出して。 「……入らないと」  その窓の向こうにはシュガーパウダーみたいに白い雪が薄っすらと積もってた。 「すごい……雪だよ、伊都」 「……」 「わぁ……」  ――い、いってきます。  お父さんが仕事へ向かうのを見送って、その玄関が開いた時、隙間から見えたんだ。ぱらぱらふわふわって降る雪が。俺は慌てて玄関からリビングの大きな窓へ向かって走ってさ。触れるとひんやりと冷たい窓ガラスにへばりついて見惚れた。  空からはゆっくりと、でも止むことなく雪が降ってきてた。  ホワイトクリスマスだね、って睦月が一緒に窓の向こう、空を見上げてた。 「積もるかなぁ」  日向も空を見上げて、そしてポツリと呟いた。 「……積もるかもね」 「うん」  寒いね。エアコンがないから、めっちゃ寒い。 「……あったかい」  だから、ぎゅっと君を抱き締めよう。君はとってもあったかいから。 「伊都、あったかい」  ずっとずっと――。  でもさ、やっぱ、雪が降るような日にノーエアコンは厳しいよね。裸で抱き合ったらあったかいけど、雪山遭難の知恵駆使するのもさ、クリスマスなんだし、ちょっと微妙かなぁって。チキンのクリーム煮に白ワイン、それからサラダ。だって水曜にはまた仕事だし。風邪引かせられないじゃん?  世界一大好きでさ、世界一大切な子にさ。だから――。 「おとおおおさああああん!」  日向と二人でメリークリスマスって、うちの実家に、日向の実家に挨拶しつつ、電気ヒーターを借りに行こうかなって。 「あれ? 伊都に、日向君」  思ったんだ。

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