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夏風邪編 6 一日の終わり
――日向がいてくれたからさ。安心できて全然、風邪でも平気だったよ。
そう、父さんに伝えた。だから大丈夫だよって言ったんだ。
「ただいまぁ、あ、伊都、おかえりなさい。風邪どう?」
今帰って来たばかりなのは君なのに、俺を見つけて、履いていたスニーカーをひょいって脱いで、でもちゃんと整えてから駆け寄ってくれる。
熱はぶり返してない?
大学で体調悪くならなかった?
頭痛くない?
吐き気は? お腹は?
そう忙しく尋ねてくれることに嬉しくなるんだ。
「大丈夫だよ」
君が心配してくれると、嬉しくてくすぐったくて、元気になる。
「よかった」
「今日の晩御飯は野菜炒めね」
「うわっ! やった! 伊都の作る野菜炒め大好き」
「お父さんのには敵わないけど」
そう言うと君は必ず笑顔で言うんだ。
「えー? 伊都の野菜炒め、俺は大好きだよー。美味しいもん」
必ずそう言って、たくさん、俺も驚くくらいに食べてくれるんだ。
「いただきまーす」
ワクワク顔をしてくれる。
「あ、そうだ! お昼のおにぎり足りた?」
「充分」
「そっかぁ、よかったぁ」
「美味しかった」
「いえいえ、お粗末さまでした。そだ、お店の近くにね、おにぎり屋さんがあるんだよー。美味しいのかなぁ」
「どうかな。日向のおにぎりめっちゃ美味しいから」
くしゃりと笑って、肩を竦めて、たくさん、「ねぇ、そんなに口に収まる?」ってくらいにピーマンもキャベツもニンジンも、お肉もぜーんぶ食べてくれる。
「伊都の作る野菜炒めの玉ねぎ、俺大好きなんだ」
「ありがと」
あと、ちょっと生だと苦手だったらしい玉ねぎだって、ほら。
たくさん食べて、たくさん笑って、今日一日のことをたくさん話してさ。
「あ、伊都、ちゃんと髪拭いた? また濡れたままだと」
「ちゃんと拭いたし乾かしたよ。風邪引いたら大変だもんね」
「うん」
一日、それぞれ頑張った後は、ぎゅって。
「日向」
「……ぁ」
「したいなぁって思うんですが」
ベッドで湯上りのほわほわな君を抱き締めたいなぁって、思うんですが。
「あ、の……でも、へ、き? その風邪」
「大丈夫。もう元気だよ」
「ホント?」
「本当」
いかがでしょう。
「伊都……」
君の声が甘くなる。
「ン」
君の吐息が艶を増す。
「伊都……ぁっ、ン」
うなじにキスをしたら、蕩けた声が俺を呼んでくれるんだ。
「あ、の……今日、まだできないよねって思って、その」
「……」
「俺、準備してない、よ?」
「熱、上がっちゃうかも」
「えっ! ウソっ、たいへ、……」
慌ててしまう君の額に額をくっつけて。うん、ウソですって、即自白した。君は少し頬を膨らまして、もぉって怒ってから、きゅって俺のことを捕まえてくれる。
だってさ、日向、ねぇ、今、まだできないよねって思ったって言った。なんだかとても残念そうな口ぶりなんですけれど。
そんなこと言われたら、熱上がっちゃうと思わない?
「ぁ、伊都……」
キスをしながらベッドに君を押し倒して、重さで潰れてしまわないように身体をずらしながら、不埒な手で白い肌をまさぐる。
夏の家着は薄着で、ありがたいなぁなんて思ったりしながら。
「あっ、ン」
ハーフパンツの裾から忍び込んで太腿を撫でるとさ。
「ぁ、あっ、伊都っ」
たまらないよ。
「ん、くぅ……ン」
ちょっと際どいギリギリまで手を忍ばせて、喘いで仰け反る君の首筋にキスをする。白い肌はすぐに痕が付いちゃうから、慎重に。
「あっ……ン」
慎重に、そっと口付けるんだ。
「ぁ、伊都」
気持ち良さそうな声。
「伊都ぉ」
おねだりの甘い声。
「ンっ、ぁっ」
Tシャツを捲って。
「あンっ」
ここなら、痕をつけても大丈夫。
「アッ、ぁっ」
小さな粒がもう硬くなってる。舌先で転がして、ゾクゾクってしちゃう敏感な君の胸に歯を立てて、ちょっとだけ齧るんだ。ほんのちょっとだけ。たくさんしたら痛いから、少しだけ。
「ん、ぁっ、ぁ、伊都っ」
日向が気持ち良さそうに俺を呼んで、俺は唇に一回キスをしてから、反対側の乳首を噛んであげる。もちろんちょっとだけ。
「やぁっン」
舐めて、優しく吸って、キスをして。
「あ、伊都、伊都っ」
さっき、キスをしたもう一個の乳首は指で、きゅって。
「ぁ、あ、あ、伊都っ、も、イっちゃいそうっ」
「いいよ、日向」
「あ、あ、あっ」
君の声がもっともっと甘くなって。やらしく、喘ぐとさ。
「ぁ、ン、伊都っ、ぁ、イっちゅうっ……っんんん」
ハーフパンツから侵入した俺の手の中で君がイって、背中を丸めながらしがみついて、甘く囁くんだ。
「ぁ、ンっ……伊都も、気持ちよく……なって、一緒がいいよ」
なんてさ、日向が気持ちイイ時は俺も気持ちイイのに、そんな俺を煽って、困らせて、もっとたくさん君のことを抱き締めたくさせるんだ。
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