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同窓会(中学)編 3 魔のカレー
すごい懐かしいことを思い出したなぁ…………って。
「う、うーん」
実家から転送届けは出してあるからこっちに届いてくれたこの葉書。中学一年の時のクラス同窓会。その出欠席表が送られてきた。それを見て、とても懐かしいことを思い出してた。
やるならお酒が飲める二十歳以降にすればいいのに、主催者じゃない呑気な部外者は大きなお世話だけど。
にしても、これ。
「うーん……」
彼は来るのかな。来たら、ちょっとだけからかわれそうだなぁって。それはめんどくさいなぁって。
「あ、伊都、おかえりー」
「……ただいま」
「今日はカレーにしたんだ。伊都、うちのカレー好きでしょ?」
親が同性愛者だということをからかってきたクラスメイトがいた。その中学一年の時に。だから、また、ちょっかい出されちゃうのかなぁって、さ。
「? 伊都? どうかしたの?」
でも、俺は君のことをとてもとても好きでさ。
「伊都ってば? どーしたの? 急にギュッてしたら、料理中だから危ないよ?」
ひとつも悪いことなんてしていないから、ひとつも隠すこともないと自信を持って言えるから。
「伊都?」
「なんでもないよ。ただ、日向のことが好きだなぁって思っただけ」
「……ン」
けれどもそれを揶揄する人もいるのはわかるようになった、あの頃よりは少しだけ大人になった俺だからさ。
「えっ! そんなことがあったの? 俺、知らないっ。あの高校の時のだけかと」
「いや、大ごとにはならなかったし、すぐに沈静化したからね」
「そんな……」
スプーンをぎゅっと握って、君は多分、今、すごく悲しい気持ちになったんだろう。表情が一瞬で曇ってしまった。
「父さんは悪いことなんて一つもしてないから」
「当たり前だよ!」
少し、びっくりした。
「そんなの、そんなこと言うほうが悪いよっ」
前の君だったら、悲しい気持ちになって表情が曇ったあとはしばらく曇り空のまま変わらなくなってしまうから。けれど、今の君は。
「ちょっ、なんで笑ってるの? ね、伊都?」
今の君は、怒るんだね。
「いや、これは……ぁ、日向、カレーが口んとこ、付いてる」
「えっ! ウソ! 恥ずかしっ、……ン」
食事中にキスするのは少し行儀が悪いけれど、でも、したくなっちゃったんだ。
「ウソです」
「えっ?」
「カレー付いてない」
「なっ」
君が怒ってくれたことがとても嬉しくて、まだお酒は飲めない歳だけど、カンパーイって言いたくなるくらいに嬉しかったんだ。
うちの実家のカレーはけっこう辛くて、水は必須って感じ。お父さん、ポヤポヤしてそうでさ、案外スパイス効いたのが好きなんだ。日向はうちでそれを食べて少しだけびっくりしてたっけ。
日向は辛いのがあんまり得意じゃないらしくて。
日向のうちのカレーは甘口。子どもの頃から変わらないんだって。なんかそれが納得できちゃう日向そっくりのお母さん。だから君の作ってくれるカレーはもちろん甘口。水がなくても全然大丈夫。けど、コクがあって深みがあってとにかく美味しくて。毎日でも食べたくてさ。日向が気にしてしまうから言わないけれど、心の中で、実は「魔のカレー」なんてあだ名をつけちゃってたりする。美味しくてさ、ちょっと食べ過ぎちゃうんだ。そんなにストイックにはしていないけれど、一応これでも水難救助隊を目指す、一アスリートなもので。甘くて、美味しい君のカレーは。
「あっ……ン」
俺の大好物の上位に食い込んでる。
「あ、伊都っ」
「日向……」
「ぁ、うん、あの」
君が頬をぽっと赤く染めて、俺の腕の中で俯きながら、手を伸ばして、胸にそっとその白い手を重ね、小さく小さく呟いた。
「お尻の中、柔らかい、よ」
そして、そっとその手で俺の、もう少しつけたいなと最近筋トレの部位で重視している胸の筋肉を優しく撫でた。
「明日は、俺、シフト、早番だから」
君の甘える時の仕草がとても好きなんだ。頬を染めながら、喉を鳴らす猫のようにその頬を俺に擦り寄せてくれる。
「早く寝ないと、でしょ? けど、伊都に準備してもらうとね」
俺はたまらなくて、触れたくなる柔らかい髪に指を絡ませて、高校時代とは違って後をとても短くしている襟足の触り心地を掌で堪能する。
「もう、指だけでもすごく気持ち良くて、イっちゃうから……何度も。だからね」
「……」
「先に、準備だけしたんだ……伊都の」
白い手が触れてくれる。
「これ……」
キュッと握られると喉奥で呼吸が詰まった。
「もう、挿れられる、よ」
「日向」
「だから、早く」
君の仕草、声、指先の艶っぽさ。そんな全部が大好きで。
「ここに、来て……」
あの甘口カレーみたいに病みつきなんだ。
「あっ……ぁ、あっ伊都」
「っ」
大きく脚を広げてくれた。少し恥ずかしそうにしながらも下腹部の辺りを撫でて、まるで今抉じ開けてる俺のことを撫でてるみたいに。その仕草、たまらないんだ。可愛くて、やらしくて、ホント。
「あっ、おっきくっ」
「ン、ごめん。挿れる時の日向が可愛くて」
苦笑いが溢れるくらい。
「へ、き……んっ……ぁ、気持ち、い……伊都がおっきくしてくれるの、嬉し……あぁ!」
魔のカレーなんてあだ名をつけたくなっちゃうあのカレーと同じくらいに、美味しくて、たまらなくて。
「あ、あ、あっ……伊都っ」
いつまででも食べていたくて困っちゃうんだ。
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