104 / 115

同窓会(中学)編 4 とあるカップルの些細で可愛い心配事

 同窓会、どうしようかなぁと悩みつつも、行かない方向でほぼ決定かなぁって、思ってた。  んだけど。 「あ、伊都、背中にゴミくっついてる」 「ありがと、日向」 「エヘヘ、なんか日曜のこの時間に電車乗るの久しぶり」 「あー、そうだね」  うん、デートみたいだね、って、日曜日のお昼、春麗の陽気の中、にっこり微笑む君の隣にいる俺の内心は、じゃあ俺は、みたいじゃなくて本当のデートが良かったなぁ、なんて。  仕事柄、日向が日曜に休めることは滅多にない。  大学に通っている俺は日曜こそが休みで、とは言ってもバイトもあるから、その日曜も丸ごと休みっていうことはあまりないんだけど。  だから、この休日に丸ごと一日一緒にいられることは滅多にない。デートは大概、平日、日向が休みの時で、俺の学校が終わった後からだ。  昔はそれじゃ足りなかったけど、今は一緒に住んでるから、それでも足りてる。 「中学の同級生に会うのって久しぶり? 玲緒君は違う中学校なんだっけ?」  だから、こんなふうに日曜に一緒に出かけられるのなら、デートの方が、同窓会より断然嬉しいんだけど。 「違うよ。玲緒は高校から一緒だったから」  なぜか、同窓会に行くと思ったんだろう日向がその日、仕事を有給で休みにした。自分もそうしたら一緒に地元に戻って、同級生たちに会って来ようかなって。そこから話は色々膨らんで、今はその同窓会よりもずっと早い時間に地元へ戻り、日向の実家に顔を出しに向かっている途中。せっかく地元の方へ戻るのだから。日向のお父さんたちも顔見たいだろうし。  同窓会は夜から。だけど、まだ学生で、飲酒もできないから、同窓会の終わる時間もそう遅くない。本当に食事会っていう感じ。  そして、終わった頃にどこかに待ち合わせようよってことになり、俺の中でほぼ決定の方向に向かっていた「欠席します」は急遽取りやめになった。 「そうなんだよねぇ。玲緒君が高校からっていうのがなんか不思議だけど」  スイミングが一緒だっただけで学校はずっと違ってたっていうのが日向には少し不思議な感じらしい。とっても仲がいいからって言って笑ってる。その少し色素の薄い髪を春の柔らかな日差しが照らして、いつも以上に陽に透けて、綺麗だった。 「ね、小学校から一緒の子とかいる?」 「いるよ。田中って女子覚えてる?」 「田中……さん……」 「そ、高校の時は何組だったっけ。俺、同じクラスにはならなかったんだけど。女バスでさ、背が高くてすらっとしてて」 「あ! わかった! 田中さん!」  日向がぱぁっと表情を明るくした。高校の時は顔を隠したくてたまらなかったから、いつも前髪が長くて、伏目がちだった。それでも、髪と同じに色素の薄い瞳は、たまに話してる最中とかさ、こっちを見つめてくれて、俺はすごくドキドキしたっけ。今もドキドキするけど。陽に透けると宝石みたいな琥珀色になるから。 「そっかぁ、田中さん。今日も来るの?」 「あー、どうだろ。いるのかなぁ。幹事のところに名前はなかったけど。友達多い子だから来るかもね」 「そっか」  そんな日向だったけれど、今はもう前髪を自分を隠すために伸ばしたりなんてしてなくて、綺麗に短くすっくりさっぱりした襟足が色っぽくて、前髪は少し長めなのがまたかっこよくて、綺麗で。つまりは、むしろ君が同級生に会いに行くっていうから、ちょっと、その女子でも男子でも、メロメロにさせちゃうだろうことが心配でさ、むしろ俺がついていく感じになってる。  どこかに攫われてしまわないように、終わりの時間くらいに待ち合わせをしようと、率先して俺が決めたのはそんな理由だったりしてる。 「日向も地元に戻って来てるって言ったら会いたいとか言い出しそうだよね」 「そう?」 「うん」  少し、びっくりした。  日向は高校で転校してきたから、中学の同級生はそれこそ一人もうちの高校には来ていない。かなり遠いから。高校の時も今も、その中学の頃の話なんてしたことあまりなかった。だから、あまり良い思い出がなかったのかもしれないって。 「田中さんかぁ……」  そうぽつりと呟いて、ずっと右から左へと流れていく景色へ視線を向けた。色素の薄い肌に、髪に、瞳に、日曜の柔らかい日差しを溶かしたように透き通るほどに輝かせながら。  気が気じゃない、って思う。 「あ、俺のお母さんからメールだ」 「なんて?」  こんなに綺麗な子、いるんだなぁって。だから、ほんと、どこかでさ、誰かに攫われやしないかと。 「お昼ご飯食べてないですか? 伊都くんはお腹空いてますか? だって、俺のことは?」 「だって、日向はたくさん食べるじゃん」 「なっ! 食べないし」 「その細い身体のどこに入るんだろうってくらい食べるじゃん。今朝だって」 「ほ、細くないってば、普通でしょ! 伊都に比べたら誰だって細いもん」 「なんか、俺太ってみたいんじゃん」 「そ、そうじゃなくてっ」  意地悪なことを考えてしまう。ほんのちょっぴりだけど、今の、明るく、ハキハキとした君は自分の魅力をこれっぽっちも隠してくれないから、もう少し、隠してはくれないかなぁなんてさ。  お母さんが返事待ってるよ? って、言うと、そうだそうだと慌てて返信を打つ君の指に輝くその指輪くらいじゃ、もう防御できないくらいに、とても綺麗だから。 「お腹、俺も、伊都も、ペコペコです」  にっこりと微笑む君はハッとするほど、とても、綺麗で、可愛いから。 「送信、っと」  誰かが君に一目惚れしやしないかといつも、俺は気が気じゃないんだ。

ともだちにシェアしよう!