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同窓会(中学)編 5 同窓会
「ふぅ」
少し食べすぎた、かな。
電車に揺られながら、自分の腹をさすった。
日向はそのまま地元の中学時代の友人に会いに出かけた。地元としては俺と日向の住んでたところは離れてるから、俺はそこから電車に乗って、自分の地元の方へ。距離的には、走ってもいける、けど、汗だくで同窓会っていうのも微妙だし。何より、腹がすごくて走れない。
日向の食いしん坊はお母さんに似たんだ。あんなに美人であんなにすらっとしてるのに、食べる量がけっこうすごい。だから作る量だって、すごい。
お昼ご飯は日向の実家で食べたんだ。ちらし寿司に、いなり寿司、野菜をお肉で巻いたのに、唐揚げに、サラダにフライドポテト。それから春巻きも。めっちゃ豪華で、めっちゃお母さんが楽しそうだった。
はしゃいでる時の日向はお母さんに似てる。誰かと会ったり、後、仕事してる時の少し大人しい日向はお父さんに似てる。食いしん坊なのはお母さんに似てて、くしゃみの仕方はお父さんに似てる。笑い方は……三人とも似てる。ふわりと微笑んで、目元がくしゃっとなる感じ。
そうだ、今度、日向の実家に――。
「…………」
うわ……「実家」だってさ。
なんか、日向のうちを自然と実家って思っちゃう感じがすごい、なんというか、すごく、すごい俺たちが一緒に暮らしてるっていう事実を実感したっていうか。もっと言っちゃうと新婚的な感じがしちゃうというか、自分にとってはそのノリっていうか。
でも、うん。
今度、日向の実家に行く時は、お酒持っていこう。お父さんと晩酌とか、さ。
――じゃあ、お父さんの晩酌の相手してやって? 伊都君と、日向と三人で飲みたいってうるさいの。お泊まりセット持ってきて。そしたら、酔っ払っても帰るの翌日でいいでしょう?
何度か、日向の実家には行かせてもらってる。けど、泊まったことはなかった。
「……」
いいな。楽しそう。お母さんも飲むのかな。たくさん、かな。そしたら、そのときには睦月に美味しい日本酒とか訊いておこう。あ、でも、サチおばさんに訊くのもいいかも。お父さんのお姉さんの、サチおばさん。お酒めっちゃ強いから。美味しいお酒知ってそうだ。
いつか、日向をばーちゃん家にも連れて行ってみたいな。
自然がいっぱいで、きっと日向が知らない、やったことがないことがいっぱいあそこにはあるだろうから。そしたらさ、見たことない表情が見れる。日向のびっくりした顔、笑った顔、それはら――。
そこで目的の駅についた。
アナウンスが流れて、開く扉側の方へと移動する。扉が開いた途端、どっと人が降りた。
今住んでる場所とは違う音楽、全然違う人の量、もっと忙しそうな空気。
「えっと……同窓会の会場は……」
海が近いから、春先になるともうサーファーで海岸の方は賑わい始めるし。ここよりもっとのんびりとしている。時間も人も。賑やかで楽しそうに、ここまで早歩きはしないっていうかさ。
それで、ばーちゃん家はもっと人も少なくて、もっと静かで、もっとのんびりしてる。きっと日向は気にいるって思ったんだ。
同窓会の会場はイタリアンレストランだった。ガラス張りになっているから入る前から店内の様子がよく見える。多分、貸切っぽい。
そっと店の中に入るとスタッフの人がにこりと笑って会釈をした。そして中へ。
「え、もしかして! 佐伯君?」
「え、え、え、え、佐伯くん?」
「きゃー、佐伯くんだー!」
はい。どうもこんにちは。お久しぶりです。佐伯です。そう挨拶をする隙もなく、佐伯くんですよねって何度も訊かれて、慌てて頷きながら、あれよあれよと店内に連れて行かれた。
「うっそー」
ウソではないんだけど。
「きゃー、やば」
やばくは、ない、でしょ。
「あー、えっと、あの……ごめん。荷物を」
スタッフの、店の入り口の人に渡したかったんだけど、と小さな声でみんなの会話を遮ると、会釈をして、踵を返し、荷物を預けた。
「佐伯、久しぶり」
「田中」
「すごいね。大人気じゃん」
田中、中学も高校も同じだった女子だ。なんかやっぱり数年でも印象変わるんだなぁって思った。口調とか変わらないのに。お化粧のせいかな。
「いやいや……別に……」
「人気なんかじゃないって言うんでしょー! そういう感じ! 佐伯っぽい」
印象は少し変わったけれど、変わらず、明るくて、元気な感じの女子。
「今って地元じゃないんだっけ?」
「あ、うん」
「今日来ないかと思った」
「そ?」
「うん」
ふと、田中の視線が俺の指を見た。シルバーの指はをしている指を。
「玲緒君と、あと、白崎君、元気?」
「あ、うん」
「そっか」
そして、ふわりと笑った。
日向のことは高校の人は知らない。付き合ってるっていうの。大学の知り合いで、特に親しい人には話してるけど、でも、高校の時はすごく隠してた。日向はそれで悲しい思いをしてるから。
「あー! 田中が佐伯君独り占めしてる」
「えー、してないしてない。あのねっ」
「ずるいー! 早く、佐伯君もっ」
だから田中も知らないはずなんだ。この、高校三年から身につけてる指輪の相手は。日向はずっとネックレスにしてたから。二人で登下校を一緒にするようになってたからさ、それで同じ指に同じシルバーの指輪は目立つでしょ? だから俺はして、日向はネックレスにして首から下げてた。
だから、田中は知らない、はずなんだけど。
「はいはい。行きますってば」
多分、あれは、なんとなく、バレてるだろうなって思って、ちょっとさ。
「っていうか皆、佐伯狙いすぎ、無理だから! 佐伯、彼女いるよー? めっちゃ可愛い子」
ちょっと、くすぐったかったんだ。
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