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日向視点のとある日々編 1 する方、してもらう方

 俺は自分のこと嫌いだった。  どうして女の子を好きになれないんだろう。なんで、どうして男子を好きになっちゃうんだろうって。  自然と湧き出てくる気持ちなのに、それは「特異」なもので、普通と「違ってる」ことだったから。誰にも言えない、もちろん、好きな相手になんて絶対に絶対に言ってはいけないこと。  けれどそのうち気持ちがもう溢れそうで。  言っちゃったんだ。  溢れちゃって、言ってしまった。  結果は最悪。  それからは、俺にとって「これは」人には言っちゃいけないことになった。とても強烈で頑なで。  そのうち、あまりにも強くその言葉を持ってたからか、「言っちゃ」が取れて、ただ「いけないこと」になった。  人に向けちゃ「いけないこと」になった。  それを変えてくれたのが伊都だった。  すごいよね。  すごいんだ。  あんなに頑なに思っていた「いけないこと」だったはずのものを。  今、こうして大事に持っていられるようになったんだから。  彼が好き、って気持ちを――。 「白崎さんの恋人さんって、彼氏さん、ってほんとなんすか?」  仕事の休憩時間。ふと、そう訊かれた。アシスタントをしている北川くん。まだ入って一年目の新人さん。けど、去年の春だったから今年から後輩ができるかもしれないって嬉しそうにしてた。もちろん、採用OKを出した子がうちの店に来れば、だけど。うちに来てくれたら、だけど。やっぱり、どこも働き手不足みたいで。もちろん、都会の超人気サロンとかなら話は別なのかも知れないけど。 「あ、うん」 「……」  え、返事、したのに、無言? 「……えっと」  北川くんは身長が高くて、まだアシスタントだからシャンプーとかやることが多くて、腰が辛そうだなって思ったことがあった。その態勢だとどうしても痛くなっちゃうから、こうしたらいいよって。ちょっとした腰の向きの違いで少しでも軽減できたりするから。それからかな、挨拶だけじゃなく、ちょいちょい話しかけられるようになって。 「あの……」 「あーいや、変な意味ないっす」 「ぁ、うん」 「ただ」  ただ? 「俺も、その、彼氏持ちなんで」 「! そう、なんだ」 「どっちすか?」 「え?」 「あ、いや、休憩時間に訊くことじゃなかったっす」 「あ……」  それって、そういう系の話?  つまりは、夜の、エッチな。 「なんでもないっす。すいません。同じ感じの人、周りにいなくて、だからつい」  北川くんは耳まで真っ赤にしながら、俯いて、持っていた水筒のマグを両手でギュッと握った。  グレージュカラーに綺麗に染め上げられた髪をベリーショートにしていて。頭の形がすごくいいなぁ、なんて。 「あの、えっと」 「……」 「俺が、その女の子? のほうだよ」 「……あ、そうなんですか」 「うん」  なんて言ったら、よくわからなかった。専門用語もあるけど、なんか使ったことないから、言うのはちょっと勇気というか気合いが必要で。だから、なんか、そんな言い方になっちゃった。  もちろん、伊都が俺のこと女の子扱いしてたり、女の子の代わりに、なんてしてないのは充分わかってる。俺のことちゃんと男子として好きでいてくれる。 「そっか」 「うん。北川くんって」  背もすごく高くて。口調も男子っぽい、だから。 「あの、俺もなんです」  俺はてっきり。 「そっか……すご……この業界、そっち系の人多いって聞くけど、そうなんだ……あの、今度相談に乗ってもらってもいいですか?」 「……えっ!」 「あ、すんません。プラベ、話さない感じですか?」 「あ、いや、そうじゃなくて……えええっ!」  てっきり、反対側かと思っちゃったんだ。 「えぇ?」  わ。すごい怪訝な顔。 「えー?」  そして、不穏な声。 「何それ、危険じゃん」 「? 危険なこと、してないよ? ハサミはちゃんと」 「違くて。日向が危険じゃん」  首を傾げると伊都の口がへの字に曲がっちゃった。 「普通そういう話し職場で、休憩中にないでしょ」 「うーん、まぁ、けど、相談とか、やっぱできないって言ってたから、同じ? ような人がいて話したかったんじゃないかな」 「……」  あ、眉間に皺も寄っちゃった。  伊都って、そうなんだよね。よく優しくておおらかで、とにかく優しいってみんな思ってる。俺もそう思ってるんだけど、けっこうちゃんと怒って、ちゃんと不機嫌になるんだ。むすーってしたりも、ちゃんとする。紳士だけどちゃんと俺と同じ歳だなって思うところがあってさ。 「大丈夫だってば」 「日向はまた」 「そうじゃなくて。その、同じだったから」 「?」 「俺と同じで、その、なんていうかしてもらうほう」  そういうとこ、すごく好き。優しくて、いい人なんだけど、ちゃんと怒れるところとか。 「だから、全然心配とかヤキモチとかいらないです」  ちゃんとワガママなところとか。 「そんなの」 「それにね」  人って見かけじゃわからないよね。俺、てっきり伊都の方だと思っちゃた。その、いわゆる、する側。 「ラブラブな彼氏がいるんだって」 「……」 「それも俺と同じじゃない?」  少し治ったへの字口にキスをした。 「ラブラブ……ね?」  そう言って、笑ったら、少し眉間の皺もなくなって。 「ふふふ」  瞳が柔らかく俺のことを見つめてくれたから。 「伊都」  抱き締めて欲しいなぁって、その手をぎゅっと握った。

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