121 / 123
日向視点のとある日々編 6 とんでもない
とんでもないものを見られてしまった。
どうして落っことしちゃうかな。
どうして伊都が帰ってきたことに気が付かなかったかな。
「これって……」
「!」
びっくり、するよね。帰ってきたら、恋人がとんでもないものスマホで見てるんだもん。目、丸くなっちゃうよね。お、お……となの、オモチャとか、エス……エ……ムとか。
違うんだ。
そのどんなものがあるんだろうって記事を読んでただけなんだ。
今日、職場の後輩で、同じゲイの子に、今付き合ってる彼氏とのことで相談されて。
だから決して俺の趣味とかじゃなくて。
「あ、あ、あ、あ、ああ、あの、これは」
違くて。やってみたいとかじゃなくて、ただ、マンネリ防止にはこういうのも有効ですよっていう一例なだけで。俺がしたいとかそういうわけじゃなくて。
「……してみたいの? オモチャとソフトSM」
「ひゃあああああああっ、あのっ、あのっ」
びっくりしたよね。引く、でしょ? 違うから、その、全然。
「してみたいならやってみようか。日向が痛いのとかは俺、嫌だけど、日向がしたいことなら」
「ちちちちち、違くてっ」
思わず、伊都の手をぎゅっと握ってしまった。大人のオモチャの写真がでかでかと表示されてるスマホごと。
「してみたい、とかじゃなくてっ」
伊都がちょっと目を大きく見開きながら、じっと真っ直ぐ俺を見つめてる。俺が困ってるんじゃないか、悩んでるんじゃないかって、真っ直ぐ気持ちを真正面に置いて、受け止めてくれる。
「話した、でしょ? その職場で……って」
ラブラブな彼氏がいて、その俺と同じ、してもらう方の人でって。
「その後輩がね、付き合ってる相手、もとの恋愛対象が女の子なんだ」
「……」
けど、今、初めて付き合ってる人は同性。
「それで、その、そういうプライベートの相談受けたっていうか、話したっていうか。そしたら、ふと」
俺も気になって来ちゃったんだ。
「それって」
一瞬、伊都の表情が曇り空になった。俺が、伊都もそうなんじゃないかって思ったと、きっと、思ったんだ。
伊都も、ゲイ、じゃないと思うから、俺じゃなくて、そもそもの恋愛対象は女の子だと思うから。
「あ! いや! それは疑ってない、です。伊都のそういう恋愛対象の性別とか関係なく、俺のことを好きになってくれたこと」
自分で言いながら、なんてすごいことなんだろうって、ちょっと驚いちゃうくらい、それはとても奇跡のようなことだと思う。性別飛び越える好きって。
そうたくさんあることじゃない。誰もが性別を超えちゃうくらいに相手のことが好きだから付き合ってる、結婚してる、ってわけじゃない、でしょ。
「だから、それは悩んだり、してないです」
そう言えちゃうってすごいよね。
「じゃあ」
「えと、これは、つまり……」
ぎゅっと伊都の手を握ったまま、目を合わせて打ち明けるのはとても気恥ずかしくて、きっと真っ赤だろう頬を隠すように、少し俯きながら。
「お、俺とするの、飽きたり、しないかなって思って」
「……」
「だ、だって、ずっと同じ相手、でしょ? その、俺がすごいテっ……テクニシャン……とかなら違うんだろうけど、そうじゃないし。だからっ、その」
すごく上手でさ、リードできたり。そのいろんなこと知ってたり、できたら、バリエーション? っていうの? が増えると違うんだろうなぁって思う。けど、そもそも、自分の恋愛観はダメなものって思ってたくらいだから、詳しくなくて。
「飽きちゃったり、とか」
同じこと、じゃないけど、同じようなことの繰り返し、かな? って。
「……日向は?」
「俺っ? あるわけないよっ、飽きるなんてっ、今でもドキドキするし。全然飽きてなんて」
「俺もだよ」
「!」
飽きるわけない。
「俺も、日向とするの、ちっとも飽きてない」
目が合うだけで、心臓が躍る。
手が触れただけで嬉しくなる。
キス、できたら舞い上がるし。
伊都とする時、世界で一番幸せだって、いつも思ってる。
「日向とするの、いつもドキドキしてる」
「!」
かっこいいなぁって、いつだって見惚れちゃう。
「っていうかさ」
「? うん」
ぎゅっと抱き締められれば、ほら、嬉しくて嬉しくてたまらなくなる。伊都の大きくてあったかい胸の中に閉じ込めれもらえると、最高の心地なんだ。
「こっちこそ、心配なんだよね」
何、が?
「日向の周りはオシャレでかっこいい大人もたくさんいるだろうし」
「えぇ? 何、それ」
「俺は四六時中ジャージじゃん? 大学生で、お金があるわけじゃないし。大人のかっこいい渋い感じのさ」
「…………っぷ」
「いや、笑い事じゃないから」
「あはは」
伊都がちょっとムスッとした顔をしてくれた。そんなの、それこそ必要ないのにさ。ホント、これっぽっちも必要じゃない危機感。けど、そう思ってくれてることにも嬉しくて、つい笑っちゃった。
「伊都のことしか好きじゃないってば」
「俺もそうだし」
「えー? けど、今日も女の子が話しかけてたし。伊都、モテるんだもん」
「知らない。モテてないよ」
「あはは」
「日向にモテればいいです」
「それ、モテるって意味にならなくない?」
君も俺のことをすごくすごく好きでいてくれて。
俺も君のことがすごくすごく好きでたまらなくて。
ほら、お互いに嬉しくて、ぎゅっと抱きついたまま離れずに笑ってる。
「日向しか好きじゃないよ」
「……ン」
大好きだから、今でも、キス一つで舞い上がるんだ。
小さく触れるだけのキスをなんど繰り返して、ゆっくり段々、そのキスが深くなっていく。リビングに甘くて優しいキスの音がして。
「あ」
「? 伊都?」
「オモチャはないし、飽きてないけど、してみよっか」
「?」
甘くて優しいキスに、気持ちがとろりと蕩けだした時。
「目隠し」
「え?」
君が「してみよっか」なんて言って、まるで、じゃあ少し休憩でもしよっか、みたいにのんびりそんなことを言って。
「え、えぇっ?」
にっこりと笑った。
ともだちにシェアしよう!

