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好き、ということについて編 4 酔っ払いさん

 図体が大きくなって、だんだん、周囲もなんとなく大人びた話をするようになると、必ず、ってわけじゃないか……必ずじゃないけどけっこうよく言われることがある。  え? 今、付き合ってる人としか、付き合ったことないの?  って。  頷くと、すごく驚かれたりしてさ。  そして、そのあと、これもまたけっこう言われる。  え、もったいな。  って。  もったいなくは、ないよ。  驚かれることは、あるのかもしれないけど。  でも、俺は驚かれるようなことをしてるつもりはちっともないし、自然なこと、だったし  俺は日向がいい。  だから――。 「……あつ」  思わず、独り言を呟いた。  駅前で日向が現れるのを待ってた。実家で夕食を食べて、少し睦月と話して、それから今夜、日向が職場の人たちと飲み会をしている最寄駅の改札前で待ってた。今日は、夜になっても暑くて、今、プールに入ったら気持ちいだろうなぁなんて思いながら。 「……」  そこに日向がやってきた。同じ年くらいの女の子三人と、すごく背が高いけど……多分、男、の人と、五人で。みんなメイクとかしてるから、どっちの性別か分かりにくいんだ。日向の職場の人たちって。うちの大学だと筋肉モリモリの奴とかいるし、男子って感じの奴の方が多いんだけど。 「伊都!」 「お疲れ様」  ちょっと酔ってる? ニッコニコだ。 「こんばんはー」 「こんばんは」  同僚の子で、みんな、仲が良いって言ってた。飲み会もちょくちょくあって、俺も少しだけ顔見知りになってきた。  俺たちのことも、特に聞かれてはいないけど、多分、知ってると思う。  ニコッとして、率先して、ちょっと酔っ払いな日向を俺に預けてくれるんだ。  ほら、ニッコニコだ。 「お疲れ様です。あ、白崎さんも、お疲れした」  あ、やっぱり男だ。本当に背高いな。俺より高い? けど、細いなぁ。 「それじゃあ、私たち、こっちなんで」 「あ、お疲れ様です。日向のこと、ありがとうございます」 「いえいえっ、いえいえ全然っ」  三人の女子がニッコニコでちょっとはしゃいでる。やばい、王子登場って言われてたけど、多分、その王子って言うのは俺のこと、なんだと思う。  全然王子キャラじゃないけど。  女子三人と、のっぽな男子が一人、でも、いわゆるジェンダーレスっていうか、四人で、日向と俺のことを賑やかに話し合いながら、まだ混み入ってる駅の中で反対の方向へと歩いていった。 「……帰ろっか」 「伊都?」 「んー」 「お父さんたちいた?」 「いなかった。睦月だけ」 「そっか。そっかそっか」  これはけっこう酔っ払ってるなぁ。 「晩御飯食べた?」 「食べたよ。今日は睦月が作ってくれた」 「そうなんだ! 食べてみたい!」 「美味しいよ。鶏胸肉と卵の炒め物」 「わぁ、美味しそう!」  うん。やっぱり美味しかった。けど、睦月には来るなら前もって言ってもらえたら、もっとちゃんとしたもの作ったのにって言われたよ。 「今度、大会に出るんだって。日向も仕事が大丈夫そうだったら応援行く?」 「! 行くっ、行きます!」  本当、酔っ払ってるなぁ。ぴょんぴょんとやたらと跳ねてるし、暑いからってだけじゃないと思う。ほっぺたが真っ赤だ。 「ちょっと待って、駅のコンビニ行こう」 「?」 「顔真っ赤」 「……」  少し水を飲んだ方がいいよって、その頬を撫でると、気持ちよさそうに目を細めて、首を傾げてる。  スリ……って、擦り寄ってくれる仕草がすごく可愛くて。 「今日、楽しかった?」 「うん。楽しかったよー。あのね、背の高い子、最近入ったんだけど、背がすごく高いから、腰が痛いって。シャワーがしんどいって。俺、あんまり背が高くないから大丈夫だったなぁって」 「へぇ」 「それで、伊都と同じくらいの背だなぁとか思って。それで、伊都の話もしたよー」 「そうなんだ」  じゃあ、牽制とかしなくていいかな。前にオーナーさんだったっけ、絶対に伊都の事狙ってるでしょ? って人がいて慌てたことがあった。  ちょっと喧嘩にもなりそうな感じでさ。  そりゃ、そうなるよ。だって、向こうは社会的地位があって、日向の上司で、上司ってことはまだ超絶新人だった頃の日向には憧れるところがたくさんあるだろうし。  勝負じゃないけど、でも、やっぱり勝てないなって思うところがあって。  それに、日向も俺だけ、だったから。  他を知らないからさ。  他の、もっとちゃんとした社会人で仕事ができて、お金もあって、日向と同じ美容師で。  そっちを知りたいって思うことだって。 「日向」 「?」 「どんな話したの?」 「今日? 伊都のこと?」  そう。ちょっと、知りたいなって。 「えっとね。伊都はすごくかっこよくて、なんでもできて、水泳してる時とかもうすごいかっこいい」  わ。ベタ褒めありがとう。 「でも、一番は笑ったところが好きだなぁって」 「……」 「伊都が笑ってくれるなら、なんでもできちゃうし」  ―― この人が笑ってくれるには何をしたらいいかなぁって。 「伊都のことを笑わせたいって思うって、えへへ」  ―― この人が楽しそうに笑ってくれる、それを自分ができたらいいなぁって。 「たくさん話したよー」  夜になっても今日はすごく暑くて。ちっとも風が涼しくならないくらいに蒸し暑いから。 「そうなんだ」  だから、きっと、そのせいって思ってもらえるよ。ほっぺたが真っ赤だったとしていも、それはきっと夏の夜のせいって、言い訳をしようと思った。

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