129 / 129
好き、ということについて編 6 同窓会
「はぁ、お腹いっぱーい」
そう言って日向が静まり返った夜空に両手を広げた。
花火が終わると、あんなに賑やかだったのが嘘みたいに、静かに星だけが輝いてる。火花よりもずっとずっと小さくて、地上の方が明るかったらすぐに見えなくなってしまうくらいか細い光がキラキラって。さっきまで、たくさんの人に見上げられて、あっちだこっちだ、今度はこれだって、止めどなく花火が打ち上がっていて忙しかっただろう夜空が、今は、「ふぅ」と溜め息をこぼしていそうだった。
「たくさん食べてたね」
「うん。やっぱり、伊都のお父さんの作る野菜炒めは美味しいよ」
「うん」
なんだろうね。
何が違うんだろう。
なんだか特別に美味しいんだ。
「でも、伊都が作ってくれる野菜炒めも、俺、好きだよ」
「そう?」
「ご飯いくらでも食べられちゃう」
確かに、俺が野菜炒めを作った時は、けっこう食べてくれる。ご飯が進むんだって言って、三杯とかおかわりすんだ。その細い身体のどこに三杯もご飯が入るんだろうって不思議に思うくらい。
「花火も楽しかったけど、伊都のお父さんたちに会うのがすごく楽しい」
「そう?」
「うん。憧れちゃうなぁ」
あんなふうになれたらいいなぁって、ポツリと日向が静かになった夜空に呟いた時だった。
俺のスマホの着信音が響いた。
「ぁ……玲緒だ」
「え? 玲緒くん?」
うん、と頷いて、電話に出ると外、かな? ちょっと騒がしい。歩いてもいる気がする。声が時々ブレてる。そんな電話の向こうの様子を伺っていた。
『電話、出ないかと思った』
「? なんで、出るよ」
『いや、浴衣でイチャイチャしてる最中かと』
何それって笑うと、いやいやいや、なんて言っている。
『今どこ? 伊都と日向がこっちに来てるっていうから、俺、戻ってきたんだ』
「あ、そうなんだ」
『もう帰っちゃった?』
「いや、今、駅に向かってる。実家でご飯食べてた」
『え、駅? 俺も今駅』
そうなんだ。じゃあ、どこかで。
『どこかで』
会えるかな、って玲緒の声がスマホから聞こえて。
「あ、伊都、玲緒くんっ!」
日向が浴衣の袖をくんと引っ張って俺のことを引き寄せてから、指を前方に向けた。
「『あ』」
その前方には玲緒がいて。話してる声はスマホ越しに、でも、目の前にそう同じように口を動かしている本人がいた。
「『いた』」
そして電話が予告もなく切れて。
「おーい」
玲緒本人の声が直に聞こえてきた。
玲緒は浴衣ではなく普段着だった。
駅前には今日の花火大会の余韻に浸っているように、チラホラと浴衣姿の人もいたけれど。もう、花火が終了してしまうと、明らかに仕事帰りなんだろう人たちも急足で駅を通り抜けていく。
どこかお店に入る? ってなったけれど、俺も日向も、実家で食べてきたばかりでお腹は満腹だし、玲緒も外で夕食を済ませたばかりのようで、お店に入っても何も食べれなさそうってことになった。ドリンクだけ……って思っても、まだまだ学生な俺たちはドリンク一杯でそんなに? って値段を支払うことを渋ってしまい、結果、コンビニで飲み物だけ買い、駅前のベンチに腰を下ろすことにした。
暑さはあったけれど、でも、もう夜も更けてくると、一気に風が涼しくなってきて、きっと、さっきの蒸し暑さは、人の多さも関係したいたのだと思う。
今は、屋外で風があるなら、お茶のペットボトルがあれば、どうにか過ごせるくらいになってきていた。
「いや、もう電車の中すごかった。逆流することになるから混んでないかと思ったのに全然。花火が終わった頃に、花火会場に行く方向の電車があんなに混んでたのなんで? みんな、どこに行くの?」
それは知らないけど。そう心の中で、おしゃべりが止まらない玲緒に返事をした。
「でさでさ、最近、すっごい久しぶりな子にあってさぁ。誰だと思う?」
ヒントが久しぶりな子、ってだけじゃわからないよ。そう考えるフリをしてみたけれど、あまりに漠然としているヒントじゃ考えるのがめんどくさくて、実はそんなに考え込むこともなくわからないと答えた。それが不服だったようで、玲緒が「ちょっとは考えろ」って怒った顔をしてる。
「前に、伊都のことが好きだった子。俺がさ、会わせたじゃん」
「えぇ? 伊都に」
「そー、すっごい前、中学生の時だよ」
「えぇ……」
「いや、大丈夫、日向、もうその子、結婚して子どもいてさ。三つ子のお母さんしてた。三つ子だよ? 同じ年だよ? びっくりじゃん? お母さんなんて」
俺のことを好きだって、会わせた子。
―― あの、伊都くんって、今、付き合ってる人いる?
あの子、結婚してお母さんになったんだ。
―― あの、よかったら付き合ってくれませんか?
そっか。三つ子、大変そうだ。
「今日の飲み会にちらっと顔出しててさぁ。なんか、びっくりした。あとさ、あとさ」
今日は、同窓会だったんだ。多分、中学の。俺と玲緒は高校から一緒だったから。
そこからおしゃべりが上手な玲緒が面白くたくさんの話題を散りばめてくれていた。
それは花火がパッと上がって、広がって、消えて行くみたいに、取り留めなく、賑やかで、楽しいお喋りだった。
ともだちにシェアしよう!

