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第5話
「っ、何をっ、何を知った振りしてんだよ!!お前がっ、お前が、俺の何を知ってるんだ!!俺が今まで、どんな思いで…っっ、どんな、気持ちで、ここに居るのかなんて…っっ」
ボロボロと涙を流しながら、神尾は激昂した。顔を真っ赤にして、保っていた冷静さを全て剥ぎ取ったその姿は、あまりにも滑稽に思えて、更に神尾の感情を乱していった。しかし、その姿を見ても山下は一切驚かなかった。
静かな瞳で、神尾を見つめ続けた。
「…知ってる」
「はぁ?!ふざけんなっっ、知らないくせにっっ」
「知ってるよ、良」
「嘘だっ、嘘つくなっ!!」
「良」
「うるさいっ!黙れよ!俺は、本当に…っ死にたくなるほどお前を…っっ」
「…良」
まるで、子どもの駄々を落ち着かせるかのように、穏やかな、かつてなく優しく、山下は神尾の名前を呼び続けた。
「……お前、を…」
「良。俺を…なんなんだ?」
静かに、ただ静かに、山下は次の言葉を促した。
「………お前を…愛してる…、好き…だ…」
か細く、苦しみの滲む声音だった。
愛を告白するには、到底似つかわしくない声音だった。
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