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第2話
教室に1人、スマホを片手に佇む姿。
何気ないそんな仕草すら、自分の好きな人であるだけでこんなにも綺麗に見える。
「カズ」
たとえ名前を呼んだからであっても目が合ったのが嬉しくて、それでも彼が此処に残っている意味を知っているから少しだけ胸が痛む。
「まだ残ってたのか」
「それはこっちのセリフ。亜紀こそ、こんな時間までどこ行ってたの?」
「図書館。借りるの面倒だから、立ち読みだけして帰ってきた」
全校中に広まっているくらいの、『笹原亜紀』の悪い噂。きっとカズの耳にも、放課後に俺がああいうことをしてるって話は届いている。それでも俺は、用意していた嘘を告げた。
信じたのか、それとも追及する気が無いだけなのか。カズは「ふーん」と呟いて、またスマホに視線を落とす。
「……アイツを、待ってるのか?」
「うん。彼は忙しいから」
そう言いつつもカズの浮かべた表情は微笑。
今まで過ごしてきて分かったのは、カズは俺を好きにならないという残酷な事実だった。
それを裏付けるように、カズには去年の秋からの恋人がいる。
「しょうがないな、一緒に待ってやるよ」
「なにそれ偉そう。でも、ありがと。確かにちょっと退屈だったから」
彼の隣にいるのは苦しい。でもそれ以上に、彼の側に居るのは心地がいい。
彼の一番にはなれない。でも、ずっと二番目の立場を守ることなら出来る。
親友でいい。恋人になれなくてもいい。
彼が笑っている姿を、ずっと側で見られたなら。
ーーそう、決意を改めて確認した時だった。
「和佐、まだ居る?」
その声は、今まで俺が避けてきた人物の声。
会ってしまえば嫉妬してしまうと分かっていたから。
「隼斗っ!」
2人が一緒にいる間は、極力近づかないようにしていた。今までにもこうしてカズと一緒に待っていたことはあったけれど、彼の部活が終わったと聞けばすぐに帰るようにしていた。
「どうしたの?いつもなら連絡くれるのに」
「和佐をびっくりさせたくて。それに、文字を打つ時間も惜しいくらいに早く会いたかったから」
「隼斗……」
割り切ったつもりだったのに、いざその光景を前にするとギシギシと心が軋む。
「じゃあ、俺は帰るよ」
だから一刻も早くこの場を離れたくてそう告げた。置いていた荷物を肩にかけ、教室を出ようとした。それを止めたのは、カズのとは明らかに違う声。
「待って。君、亜紀ちゃんだろ?和佐からよく名前は聞いてる」
ふざけた呼び方が気に障るが、それでもカズが恋人にまで自分の話をしてくれたということに幾分か満たされる。
「一緒に帰ろうよ。僕も一回、和佐の親友と話がしてみたいと思ってたんだ」
思いもよらない彼の提案に驚く。カズは……と思って見れば、笑顔で頷いていた。
そうなれば俺に選択肢は1つしかない。
「俺は別にいいけど」
そう言えば2人が荷物を持って俺の横に並ぶ。
左から順に、なぜか隼斗・俺・カズの順に。
「じゃあ行こうか」
左から入る聞き慣れない声に、どこか心がざわついた。
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