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第3話
それは会話というよりはむしろ、尋問のような時間。俺は隼斗からの質問に、ただひたすら答え続けていた。
好きな食べ物や趣味を聞かれるくらいならまだ良い。自分のことなら別に隠す必要もないし、隠したいとも思わないから。
問題は、カズと俺についての質問だった。
「亜紀ちゃんは和佐と小学校から一緒なんだっけ?」
その言葉をきっかけに、彼は俺とカズとの思い出を探っていく。それに答える度に思い出が薄れていくような気がして、でも俺が答えなかったとしても隣にはカズが居るわけで。
未来だけでなく過去さえも奪っていくような質問攻めに、身体が重くなっていくのを感じた。
そして更に災難は降り注ぐ。
「2人ともまたね!」
そう告げてカズは、俺たちとは違う方向に歩いていった。どうしてと問い詰めたいが、そんなのは地理的理由の他でもない。
隼斗の家がどこかは分からないが、少なくとも俺の家まではあと5分以上ある。その間、隼斗と2人だけの空気に耐えられる自信がなかった。
きっと彼も初対面の人間との沈黙は嫌だろうと結論付け、さっきよりも歩調を早める。
だが、彼はそれを許さなかった。
「待ってよ」
その声と共に掴まれた腕。不思議に思いながらも、足を止めざるを得ない状況。
「つれないなぁ。和佐がいなくなった途端逃げようとするなんて」
そう言って彼は、突然に態度を変え始めた。でも恋人が居なくなったのならいい顔をする必要が無いのは当然で、それなら自分も彼に従おうと考える。
「一緒に帰る必要性が見当たらないんで」
そう冷たく言えば、彼は嫌そうな顔をするでもなく、怯むわけでもなく……嬉しそうに笑った。
「ダメだよ、誰に対しても気は張ってないと。そんなに急に態度を変えたら、亜紀ちゃんの本命が和佐だって言ってるようなものだ」
「それが?」
なぜ彼にそんな忠告をされなければならないのかと、少しだけ怒りが湧く。それと同時に、たった今までの会話でそこまで見破られたことに驚いていた。
俺は本命がいると言いながら、その正体は誰にも明かしていない。詮索されないように「本命は海外に引っ越してしまった」という丁寧な設定まで付けてある。
それは嫉妬の目がカズに向かないようにという理由からであり、相手がカズの恋人かつ、カズの絶対的味方であろう彼ならば、バレたところで何の問題も無い。驚きはしたが、不幸中の幸いと言えるだろう。
「へぇ……否定しないんだ?」
「別に。隠したくて隠してるわけじゃない」
そう思っていた俺は甘くて、実際は彼の忠告が正しかった。
「亜紀ちゃんの価値観ならそうだろうね。でも現実は、亜紀ちゃんほど真っ直ぐに人を愛せる人なんてほとんど居ない」
突然何かを語り出した彼の口は、怪訝な視線を向けても止まらない。
「『笹原亜紀は本気になった相手を捨てる。』
その噂を聞いて嬉しかったんだ。あぁ、そいつも僕と同類なんだろうなって」
「同類……?」
「うん。あぁ、でも心配しないで。和佐のことはまだ捨てたりしないから」
急に出たカズの名前に、条件反射で脳が動いた。言葉の意味を理解しようとして、『まだ』の一言が耳に引っかかる。それは未来、別れることが確定しているかのような口ぶりで。まさか遊びのつもりじゃないだろうなと問い詰めるより先に、彼の言葉が続く。
「まぁそれも僕からのお願いの返答次第だけどね。……亜紀ちゃんはどうしたい?」
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