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第6話

現実逃避の為に落とした電源も、彼の言葉を思い出せばそのままにしておくわけにはいかなくて。まだ妹も母も帰ってきていない家で1人、自分の携帯と向き合った。 メッセージアプリには1件の通知。 『明日の18時、いつも亜紀ちゃんが使ってる教室で待っていて』 それは案の定、隼斗からのものだった。 その言葉に頷くしかないのは分かっていて、でも『了解』と送れば合意になる気がして嫌で。それでも返信しないのを無視と見做される可能性だってあるわけだから、せめてもの抵抗にとブーイングを表す絵文字を送る。そうすれば、即座に頭を撫でているような顔文字が送られてきた。 自然と出た舌打ちは静かな部屋によく響く。思考を放棄するように、冷たくて硬い机の上に突っ伏した。 そうして数分が経過すれば、「ただいまー!」と楽しげな妹の声が響く。俺とは違って、真っ直ぐで底抜けの明るさを持った妹。いつもは鬱陶しいと思うその性格も、今は嫌な気分を吹き飛ばしてくれる相手として実に頼もしかった。 しばらく経って母も帰ってきて、3人でいつも通り食卓を囲んだ。2つ下で中3の妹は、学校であったことを面白おかしく話している。適当に相槌を打っているうちに少しだけ気分が軽くなって、わずかな希望だって見えてきた。 大丈夫。これくらいのこと、今までやってきたのと何も変わらない。抱いていたのが、抱かれる側にまわるだけ。それに、あいつが俺に飽きるまでの約束なら、嫌われるようなことをし続ければいいだけの話だ。 今までだって、しつこく付き纏ってきた奴くらいはいた。でもそいつらだって、俺が本当に自分に興味が無くなったんだと気付けば離れていった。今回だって、それと同じ。 眠る前にはそんな風にさえ考えられるようになったのだから、きっと明日だって大丈夫だ。

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