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第8話

焦らすようにゆっくりと。それでも確かに、男は俺の命令に従っていく。 いつもは当たり前のことだと何も感じず見ていたその行動が、なぜか今日はひどく滑稽に映った。 どうしてこんなにも簡単に人の命令に従えるんだろう。こいつに尊厳ってものは無いのだろうか。 「なぁ、恥ずかしくないわけ?」 自分で強要した癖に何を言っているんだと俺なら思う。それでも男はそれを言葉攻めの一種と捉えたようで、全く参考にならない答えを返した。 「亜紀くんなら平気」 笑って言うそいつが、一瞬だけ未知の生物に見える。俺なら平気の意味が、俺には全く理解できない。 彼だって、本気で俺のことを好きなわけじゃない癖に。 少しだけその意味を考えて、彼は純粋に『こういうコト』が好きなんだろうと納得した。だから気分を高めるような嘘を吐いているだけなのだと。 そんな彼は哀れだと思うし、この状況をただ楽しめる彼を羨ましいとも思う。 「……そ。じゃあ、今日はたくさん虐めてあげるよ」 そんな気持ちをぶつけるように、露わになった彼の肌をねっとりと舐め上げた。 それと同時に、彼の欲望へと手を伸ばす。 「……んっ」 やんわりとそこを握れば、早速彼は甘い息を漏らした。 そのまま上下に扱くうちに、だんだんとそれは大きく硬くなっていく。 「早いね」 揶揄いを込めたその声も、彼にとっては興奮を煽る材料にしかならない。 「亜紀くんが、上手いからっ……!」 そう言って早くも欲を放とうとした彼の大きくなったそれを、俺は無残にも強く握った。 「な、で……」 「今日は虐めてあげるって言ったろ?」 むしゃくしゃするこの気持ちを癒す為にも、あと45分の暇を潰す為にも。 彼には啼いて、俺の心を満たしてもらわなければならない。 「簡単にはイかせてやらないから」 その言葉に振り返った彼の目には「嫌だ」と言う意思が含まれていて、少しだけ気分が高揚したのを感じた。

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