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第10話
ガラリと音を立てた扉に俺と男が反応する。
現れた人物へと同時に、「なんで……?」の言葉を投げかけた。
だが正確には、そこに内包された意味が違う。
男の言葉は恐らく、なぜ彼がここにいるのかという意味。
そして俺の言葉は、なぜ約束の時間の30分も前に彼がココに来たのかという意味。
「ちゃんとイイ子に待ってたみたいだね」
どこまでもマイペースな彼は、俺たちの問いには答えない。代わりに出たのは、嫌味のようなその言葉。
「なんで、隼斗くんが……?」
状況を理解できていない彼が、再び隼斗に問いかける。そんな彼に向かって、隼斗は笑みを崩さずに…….いや、より笑みを深くして言った。
「ここに来れば亜紀ちゃんと遊べるって聞いたからね。でももう先約が居るみたいだから、僕は見ていることにするよ」
彼は俺たちの方へ歩みを進め、一番よく見える席を陣取る。
「ほら、続けて?」
隼斗はおかしい。
最初に話した時から薄々感じてはいたが、でも、他人のセックスを間近で見ようとするほどの異常さだとは聞いてない。
「聞こえなかったの?ほら、僕が来るのを分かっていてやってたんでしょう?」
仮にも自分が抱こうとしていた相手が他の奴を組み敷いているというのに、それを続けろと言うなんて普通の神経じゃない。
「僕、もう満足したから……!」
その異常さに恐怖を感じたのは俺だけではないようで、男は俺の下からスルリと抜け出て鞄へと走る。服装を整えて荷物も持った彼は、光のような速さで教室の外へと逃げて行った。
「ははっ、必死だね。いいの?逃げられちゃったけど」
「……別に。アイツはただの暇潰し」
このままの格好でいるのは間抜けに思えて、脱いだ自分の服へと手を伸ばす。
だがそれを、隼斗が許すはずがなかった。
「僕、亜紀ちゃんと遊ぶために来たんだけど?」
立ち上がった彼が、服を持ったままの俺の腕を掴む。
「もちろん遊んでくれるよね」
優しそうな笑顔と声に反して、その言葉には反論を許さない強さがあった。
そのまま後ろから机に押し付けられて、身動きが取れなくなる。
ここまでは予想通りで、これくらいの覚悟していた。だからそれほど驚くことでもなかった。
「それ貸して?ココじゃ処理できないし、ナマで突っ込まれるのは嫌でしょ。それとも、僕の家まで来る?」
「行くわけない」
そんな提案に誰が乗るかと鼻で笑いながら、手に持っていたそれを後ろへ放り投げる。
命令でないなら従いたくない。こんな奴とは出来るだけ関わりたくもないし、カズの件がなければ殴ってでも逃げている。
「まったく、遠くまで投げちゃって。……そのまま動かないでね」
深い溜め息が聞こえたあとに重みが消え、隼斗は俺が投げたものを拾いに行く。
そのカッコつかない姿が滑稽で、少しだけ勝った気持ちになった。
この調子で、隼斗が嫌がりそうなことをし続けてやればいい。
……弱った姿なんて、絶対に見せてやらない。
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