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第11話

「逃げないんだ?」 「うるせぇ。ヤるんなら早く終わらせろよ」 『逃げない』んじゃなく『逃げられない』のだと分かっているくせに、わざわざそれを口に出す彼の性格の悪さに苛々する。 「……ほんと、亜紀ちゃんは世話が焼けるね」 「っ!」 なら解放すればいいだろ、の声は彼の指が背中をなぞったことで消えた。その手つきにぞわりとして、情けない声を出しそうになったからだ。 頭を占めるのは、気持ち悪いという感情とカズのことだけ。 気を抜けば殴ってしまいそうになる自分の拳を、ぐっと握りしめることで耐えた。 「ここは初めて?」 それほど寒くもないのに体温の低い隼斗の手。ヒヤリとした温度が、誰も触れたことのないそこに触れる。 「ったり前だ。突っ込まれる趣味はない」 後ろに敵がいる感覚ってきっとこんな感じなんだろう。今まで自分だってしてきたくせに、後ろの動きが見えない状況がこんなにも落ち着かないものなのだと初めて知った。 「ははっ、まぁプライドの高い亜紀ちゃんならそうだろうね」 相変わらず楽しそうな彼が、俺の唇に指を押し付けてくる。意図を理解した俺は、その冷たい手を口に含んだ。 ただでさえ初めてなのに、乾いた指でいれられてはたまらない。耐える自信がないことはないが、痛さに醜態を晒すよりは指を舐めるほうがまだマシだ。 「分かんないなぁ。そこまでの魅力が和佐にあるとは思えないんだけど」 「っ、どうゆ……意味だ」 入ってきた2本の指が容赦なく口内を動いて、上手く喋ることができない。舌が冷たさを感じなくなった頃に、漸くその指は出ていく。 「ただの興味本位。確かに顔は可愛い方だと思うけど、亜紀ちゃんがここまでするほどかなって思ったらね」 その言葉に自分がカズを好きになった理由を思い出して、あまりにも小さなきっかけに笑ってしまった。カズの良いところなんて挙げようと思えばいくらでも言い続けられるが、きっとそれは隼斗には伝わらないし伝えたくもない。 ……たとえそれでカズの想いが実る可能性があったとしても、これだけは譲れない。 「お前が俺に構うほうがよっぽどおかしいと思うけど?」 「人は自分の魅力にはなかなか気付けないものだよ。亜紀ちゃんは、僕が見てきた中で最上級に『綺麗』だ」 「意味わかんね……ぅあっ!?」 会話の途中だというのに、彼は容赦なく自分のペースを突き進む。 「痛っ……ぁ……」 彼の指が身体の中に入ってきて、うまく息ができない。予想よりも強い痛みに、虚勢を張ることも忘れていた。 「可愛い亜紀ちゃんに、1つお得な情報を教えてあげるよ」

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