14 / 26

第14話〜相対価値〜

価値なんてものは人それぞれで、自分にとって価値のあるものが周りから理解されないということは意外に多い。そしてその時の『価値』ってものは、大体がその人の生きてきた過去に由来している。 僕にとっての亜紀ちゃんは、当にそれだった。 「アキ先輩、今度はココに行きましょう!」 先輩の家で雑誌片手に騒ぐのは、バカだった頃の自分自身の記憶。 「輝」くと書いて「アキラ」 だから、「アキ先輩」。 僕が中学時代の全てを費やした人はあまりにも綺麗で、それは別れる時も崩れなかった。 「俺はもう卒業だし、隼斗も新しい相手と……モテるんだから、ちゃんと女の子と付き合った方がいい。だからこれで終わりにしよう」 聡明な先輩らしい言葉。 相手を傷付けないよう選ばれた言葉たち。 それを言う先輩の顔は、いつもと同じ笑顔。 最後まで綺麗だった先輩に、僕は自分の無力さを知った。ーー僕はこんな時でさえ、先輩に辛そうな顔をさせられないのか、と。 いつも冷静で優しくて、どんなワガママも許してくれる先輩。それは裏を返せば、僕では先輩の心を動かすことが出来なかったということ。 だから決めた。 今度は無理やりにでも、相手の視界に入ってやる。どんな感情でもいい。僕の行動で、心を乱してくれれば。 「痛っ……ぁ……」 「動、くな……!」 さっきから僕の部屋では、隠れて録った苦しそうな亜紀ちゃんの声が流れ続けている。 聞いているだけなのに、彼の行動が、声が思い出されて、僕の支配欲を増大させていく。 アキ先輩と別れてから、亜紀ちゃんほどでは無いにしろ性には奔放に生きてきた。さすがに学校でやったことはなかったけれど、何人かはそういう友達もいる。 傷付いた心を埋めるため。 そう言えば少しは聞こえがいいのだろうけど、実際僕が求めていたのは愛情ではなく、自分の行動で反応を見せてくれるオモチャだった。 亜紀ちゃんの存在を知ったのも、そんな友達のうちの1人の口からで。 「隼斗は知ってる?笹原亜紀って」 「アキ……?誰それ」 「隼斗みたいに沢山の人と寝てるの。でも噂があって、『本気で好きになったら終わり』なんだって」 「終わり?」 「振られるってこと。どんなにハイスペックな人でもバッサリ。どれだけ調子乗ってるんだろうって思うよね」 僕はそれには同意せず、早くなる心音をただ聞いていた。 アキ先輩に似た名前。 ……アキ先輩と同じ、何者にも囚われない心。 亜紀ちゃんに興味を持つようになった本当の理由は、ただそれだけだった。

ともだちにシェアしよう!