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第16話
それから僕は、持てる人脈全てを使って亜紀ちゃんについて調べ上げた。
幸いにもそのうちの2人が彼と同じクラスだったようで、クラスでの彼の様子を聞いたり盗撮を頼んだりなど、一見すればストーカーのようなこともした。
2人は執拗に亜紀ちゃんの情報を求める僕を訝しんではいたものの、何回か頼んだ頃にはもう諦めたのか、追求してくることはなくなった。
調べていって分かったのは、あの時彼が笑いかけていたのは和佐という名前の男だということ。そして彼は、亜紀ちゃんにとって小学校からの『親友』らしいということ。
「親友、ねぇ……」
貰った写真を並べ、ある法則に従って分けると、その違いは明確になる。
その法則とは、亜紀ちゃんの近くに和佐がいるかどうか。
「こんなにも分かりやすいのに」
2つを比べてみると、まず表情の豊かさが違う。和佐がいない時の亜紀ちゃんは、僕が最初にイメージしていた彼にそっくりだった。喜怒哀楽が薄く、滅多に大きくは笑わない。クール、という言葉の似合う男の子。
それに比べて和佐が近くにいる時の亜紀ちゃんは……。
「ほんと、別人みたい」
そして極め付けはこの写真。そこに写っているのは、和佐を見送る亜紀ちゃんの姿。何気ない放課後の、1枚の写真。
一番のお気に入りのそれを、そっとなぞる。
切なげ、寂しそう。そんな言葉の似合う表情。
『親友』という概念を持つことなく生きてきた僕には分からないけれど、それは友達の延長に向けた表情にしては深すぎた。
予想が確信へと変わっていく。
それと同時に、その完璧なほどまでの変わりようから目を離せなくなった。
まるで自分の世界は和佐という人間によって構成されているとでも言いたげな、彼の生き方。アキ先輩とは全然違うはずなのに、その徹底した姿勢は『綺麗』としか言いようがない。
「アキ」
溢れた名前は先輩のものか亜紀ちゃんのものか。それすら分からないほどに2人が重なっていく。
壊したい、崩したい。
手に入らないものほど欲しくなる。
綺麗なものほど壊したくなる。
持て余した感情が手へと伝わって、お気に入りの写真に皺が生まれた。
他人が見れば機嫌が悪いのかと心配するだろうこの行動は、むしろその逆の感情からだ。
自分を見てもらうためにはどうすればいいか、その答えはもう出ている。彼の唯一の世界が和佐なら、その世界を奪ってやればいい。
長い時間をかけてでも。
「待っててね」
皺を伸ばすように、決意を込めるように、もう一度その写真を撫でた。
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