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第20話

早く時間が過ぎるようにと祈りながら食べる弁当は、いつもよりも味が薄く感じられて。 仕事が忙しいのに毎日作ってくれる母に申し訳ないと思いつつも、気を紛らわせようと伸びる箸のせいで、わずか10分ほどで食べ終わってしまった。 「今日も部活遅いの?」 「んー、多分。もうすぐ地区大会だからね。一緒に帰れなくてごめん」 「ううん。1試合目は今週の土曜だったっけ?応援してる」 「ありがと。この大会で先輩たちは引退だし、悔いが残らないよう頑張るよ」 目の前で交わされる会話はまるで毒だ。 嘘が嘘だと分かるだけに、嘘を含んだ空気が澱んでいくような錯覚に陥る。 昨日予定よりも30分早く現れたのは誰だよ、と問い詰めたい気持ちを込めて軽く睨めば、ちょうどこちらを見ていた隼斗と目が合った。 まるで子供がイタズラを思い付いた時のように、隼斗の唇が弧を描く。 「2人で見にくる?会場もここから近いし」 「なんで俺まで」と言うよりも早く、「ほんと!?」と嬉しそうなカズの声が耳に届いた。 「1人だと心配だから今まで誘えなかったけど、亜紀ちゃんと一緒なら安心だろうし」 「なっ、どういう意味?」 「だって和佐、『陽野スポーツセンター』って聞いてもどこか分かんないでしょ?」 それを聞いたカズが小さく呻く。勉強においてでさえ「必要なことだけ覚えてればいいの」と豪語する彼は、建物の位置を覚えるのが大の苦手だった。流石に携帯のナビを使えば辿り着けるのかもしれないが、それでも心配になる気持ちは分からないでもない。 「だから亜紀ちゃん、和佐をよろしくね」 先ほどよりも一層綺麗に笑った彼に、脅されているような気持ちになる。たぶんそれは、気ではなく本当だ。 彼の部活を見に行くことにどれほどの意味があるのかは分からないが、少なくとも彼の中ではこれも『お願い』のうちに組み込まれているのだろう。 「時間はまた連絡するから」 そう言い置いて、隼斗は自分のクラスへと戻っていった。気付けばもう次の授業が始まるまではあと5分で、意外に時間が経過していたことに驚く。 「楽しみだね!」 無邪気、という言葉の似合う笑顔に、安心のような寂しさのような気持ちが広がった。 「そうだな」と軽く笑って、誤魔化すように取り出した教科書に視線を落とす。

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