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第21話

* どうやら部活が忙しいというのは強ち嘘ではなかったらしく、昨日までに届いていたのは今日の行き先と開始時間と、「ちゃんと来るんだよ」というメッセージのみ。 はぁ……と1つ溜め息をついて上着を羽織る。これは隼斗の為ではなくカズの為。一昨日から何度も唱えた言葉をまた脳内で繰り返して、玄関の扉を開けた。 試合開始は午前10時。一旦自転車でカズの家まで行き、そこから2人で会場へ向かおうということになっている。 閑散とした町を照らす綺麗な秋晴れ。それが心に眩しくて、時間に余裕があるにも関わらず、少しでも速くと自転車を漕いだ。 予定より10分も早く着いたというのに、カズの準備は既に終わっていたらしい。待ちきれないとばかりにもう外で待機していたようで、また溜め息を吐きそうになった。 「亜紀、おはよー!」 いつもより数段高めな声。テンションの高い挨拶に軽い「おはよう」を返して、今日の最大の目的であるナビの役割を務めることだけを考える。すると不意に、自転車を引いて隣に立ったカズがこう言った。 「休日まで付き合わせてごめんね」 俺に対しては滅多に気を遣わないカズ。そんな彼がごめんと言うなんて、そんなにも不快感を顔に表してしまっていたのかと驚く。 「なんだよ急に。別に、カズの我儘に付き合うくらいどうってことない」 むしろ嬉しい、なんてことは言いはしない。でもそれが伝わるよう、自分にできる最大の明るさで答える。 「よかった。昼まで寝たいのに起こすなって怒られるかと思った」 「そんなに怠惰な生活してねぇよ。用事がなくたって9時には起きてる」 「そっか。……いつもありがとね、亜紀」 その言葉に顔が熱くなるのが分かって、それを隠すように「ほら行くぞ」と言って漕ぎ出す。 このまま全然違うところへ行ってしまおうか。きっと、カズは辿り着くまで気付かないだろうから。 そんな狡い考えが浮かぶも、もう「ありがとう」という前金を受け取ってしまったのだからそんなことは出来ない。 結局会場に着いたのは、試合が始まる15分前のことだった。

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