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第22話
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その光景を見て最初に浮かんだのは、『すごい』という何の捻りもない言葉。
スポーツは、苦手ではないけれど好きでもない。中学の頃から帰宅部を貫いてきたため、バスケなんて体育くらいでしか触れる機会はなかった。
そんな自分を後悔するほどの景色が、目の前にある。
キュッ、キュッと鳴る靴の音。
ボールに合わせて常に変化する戦況。
ゴールが決まった瞬間に湧く外野の声に反して、
油断のない、常に前だけを見る選手の姿。
本気なんだとわかる1つ1つの動作に、自分でも気付かないうちに魅入っていた。
そしてその視線は、知らぬうちに1人を追う。
知っているから目が捉えやすいというのもあるのかもしれない。でも彼の動きは、素人目からでもコート上で一際輝いているように見えた。
「隼斗っ!」
切羽詰まった誰かの声がその名前を呼べば、彼の手の中へとボールが吸い込まれる。迫る相手を余裕そうに交わしながら、ほんの数秒で彼はゴール前へと移動していた。
一瞬の停止のあと放たれたボールが、綺麗な放物線を描く。まるで最初から成功すると決められていたかのように、どこにもぶつかることなく、それはすっぽりとリングに収まった。
「かっこいい……」
隣からの声に、思わず同意しそうになる。いつもの軽薄さを感じない、今までで一番カッコいい隼斗がそこに居た。
劣等感と憧れと、1つの諦めに似た感情が流れ込んでくる。こんな姿を見せられては、カズが隼斗を好きだというのも認めざるを得なかった。
彼の本性を知っている俺だって、騙されそうになるほどなのだから。
ーーこのままではダメだ。
認めるからこそ、今更ながらにそう思う。
隼斗の衝撃的な発言の連続に反論できずにいたけれど、あの時は彼もおかしかっただけで、話せば分かってくれるかもしれない。
少なくともコートの上で走る彼の姿は、初対面の時とは無縁に思えた。
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