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第24話
「なぁ、もうやめにしないか?」
良いタイミングなんて分からなくて、結局分かれ道に差し掛かったところでやっと伝えられた。
「何のこと?」
隼斗だって、きっとやめたいと思ってるはずだ。最初にあんなことを言った手前、やめるにやめれないだけのはずだ。
そんな一縷の希望を抱きながら。
「だから、お前が俺を抱っーーんぐっ」
「亜紀ちゃんってさぁ、恥じらいないよね。公共の場でそういうこと言おうとするのやめようよ」
口を塞がれながら確かにそうだ、と思う。
誰もいなくて、車もほとんど通らない道だとしても、せめて声くらいは抑えるべきだったと反省した。
「予想した感じ僕からも反論が必要そうな話題だから……そうだな、家まで来る?」
斜め上の提案にすぐさま断りを入れようと口を開く。だがそれを、隼斗の言葉が遮った。
「夕飯までだから30分くらいしか話せないかもだけど」
そして、その言葉を聞いて俺は考えを改める。これ以上の機会はないのではないかと。
いくら隼斗でも、親が近くにいる状況で変なことをしてくるとは思えない。そう考えれば、人の少ないココよりも隼斗の家の方が安全に思えた。
「話すだけだからな」
「もちろん」
そうして5分ほど歩いた先で辿り着いたのは、二階建ての一軒家。特に豪華なわけではないけれど、俺の家よりも土地は広そうだ。小さな庭には何かしらの植物が植えてあって、親の趣味だろうかなんて意味のないことを考えた。
そうやって色々と観察していると、はたとあることに気がつく。
「なぁ、お前の母さんって専業主婦?」
そんな質問をしたのは、もしかしたら今までの隼斗の言葉が嘘かもしれないからだ。
「いや、働いてるよ?今日は土曜だから家にいるだけ」
「父さんは?」
「今日も仕事。なんで?」
「……車が1台も停まってないから」
ここで少しでも動揺が見られたら、やっぱり家に入るのはやめよう。そう思って、注意深く隼斗を観察する。
でも彼は動揺するどころか、逆に俺をからかってきた。
「ははっ、目の付け所がいいね。さすが亜紀ちゃんだ。でも残念。僕の家には車は1台しかなくて、今は父さんが乗ってる。母さんの職場は駅から近いから、自転車で駅まで行ってあとは歩き」
その態度に嘘をついている素振りはなくて。
納得した俺は、開いた扉の中へと吸い込まれる。
「……相変わらず詰めが甘い」
後ろでガチャガチャと鳴ったのは鍵の閉まる音。
そして俺は彼の見事な嘘に、感心と後悔をするのだった。
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