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間違えられた冬真 #1 side T
「水島!お前こんなところで何やってんだ?深田はどうした?お前一人で来たのか?」
一人の見知らぬ男性が突然、僕に声を掛けた。きっと知人の誰かと間違えているのだろう。人違いだと伝えたいけれど、生憎、僕は昨日からほとんど声が出せないでいる。更に困ったことに、俊介さんは忘れ物を取りに車に戻っていて、恐らく直ぐには戻っては来ない。
『市民公園へデッサンしに行きませんか?』
俊介さんは今朝になって突然、僕をデッサンに誘った。それはきっと、声が出しづらくなった僕に気分転換をさせるためで、急いで仕事を片付けたのだろう。とてもありがたかった。なので、僕はこの誘いを快諾した。しかし、この人違いはあまりにも想定外で、声が出せない今、僕にはなす術がない。
「ひとまず二人で行こうか?バーベキュー広場はすぐそこだよ。」
男性はそう言うと、僕の腕を優しく取り、ゆっくりと立ち上がらせ、歩き出す。2〜3歩進んだところで、男性は心配そうな表情で僕を見つめた。
「足…痛むのか?ツラいか?」
どう答えることも出来ず、僕はただ俯く。すると、男性は僕をヒョイっと横抱きにした。
「あんまり無理するなよ。お前はすぐに無理するからな。大丈夫、俺がこうして皆の所へ連れて行ってやるよ。まぁ、深田じゃなくて、嫌かもしれないけど…」
驚く僕に男性は優しく語り、笑顔を向けた。
どうしよう…
この人は悪い人じゃなさそう。
だって…会った時からずっと僕を気遣ってくれているから。
だけど…俊介さんに待つよう言われたベンチは、どんどん遠ざかっていく。
どうしよう…どうしよう…
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