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間違えられた冬真 #2 side T

この人の腕の中で揺られ、バーベキュー広場に到着した。大型連休に挟まれたせいか、平日とは思えないほどの賑わいだった。 俊介さん…僕を見つけられるかなぁ… 「おーい!」 広場に入ると、入口から最も奥でバーベキューをしている一団に男性が声を掛けた。 「もぉ!遅いよ!添島君。先に始めてるわよ。」 「相変わらずの遅刻だな。添島。」 「あれ?水島君と一緒なの?深田君は?水島君が深田君と別行動をするなんて珍しいわね。」 そこには男性が一人、女性が三人いて、それぞれが僕を抱きかかえる男性に声を掛けた。 「そうなんだよ。一人でベンチで座っててさ。そのままにしておくのも危ないし…だから連れて来ちゃった。」 「連れて来ちゃったって…深田君が心配するでしょ?連絡したの。」 「いや、ちょうどスマホのバッテリー切れちゃっててさ。」 「もぉ!仕方ないわね。私がメールしておくわ。」 「本当に後先考えないんだから…昔から全然成長しないわね。添島君。」 「へいへい。それより水島、ビール飲む?喉乾いただろ?」 僕は首を横に振り、人違いであることを唇で伝える。が、残念ながらこの男性、いや添島君には伝わらない。普段なら心身共に重大なことになりそうなこの状況も、今のところ、そうならずに済んでいる。それはきっと添島君のおかげで、彼は会った瞬間から、僕を気遣い、とても優しく接してくれた。震える僕の肩口に自身の上着を掛けてくれたり、背中を擦ってくれたり。お茶を差し出してくれたり、ごく自然でとても細かい配慮だった。添島君は悪い人じゃない。むしろ良い人。少しおっちょこちょいだけど。こうしていれば、そのうち本物の水島君が来て、そこで間違いに気付いてくれるはず。そうしたら、公園の管理事務所に連れて行ってもらおう。優しい彼なら、きっとそうしてくれるはず。 彼らの口振りから分かったことは、彼らは高校の同級生。たまに集まって、旅行やバーベキュー、お酒を興じる間柄。僕に似ている水島君は体が不自由で、パートナーの深田君と間もなく入籍するらしい。そして、おっちょこちょいの添島君は、女性陣から辛辣なツッコミを受けながらも、やっぱりムードメーカーで、彼の周りでは笑いが絶えない。僕も思わず笑ってしまう。 「あっ、笑った!水島が笑ったよ!ねぇねぇ、今の面白かった?」 僕も笑顔で返すと、添島君はちょっと驚いた表情をした。 あれ?何か変だったかな… 「お前…変わったな…何かきれいになった。やっぱり男でも結婚決まるときれいになるのかな?」 「そうだよね〜水島くん♪」 添島君がいる反対隣に女性が座った。この人はみどりさん。 「深田君、遅いね。どうしたのかなぁ?」 「……」 「何か食べる?適当に取って来ようか?」 僕は首を横に振る。 「でも……良かったね。深田君の粘り勝ちだね。あれからずっーと、水島君のそばにいてくれてる…水島くん、今度こそ幸せになるんだよ。」 「っーか、万年独りのオメーに言われたくねーよ!なあ?水島。」 「そりゃそうだ!あはははは…って、オメーも万年独りだろ?添島!」 僕を挟んだ二人が笑った。僕はみどりさんが言った『今度こそ幸せに』という言葉が引っ掛かっていた。 今度こそ幸せに… 水島君…何かあったのかな… 見ず知らずの水島君のことが、徐々に気になり始めていたが、もうそこで考えるのは辞めることにした。水島君にしてみれば迷惑な話だ。ただ、容姿が似ているだけの他人に過去を詮索されるなんて。 最初こそ笑っていたみどりさんだったが、途中で何かに気が付いた様に慌てた素振りを見せた。 「ごっ、ごめんなさい。もし良かったら左腕…見せてもらっても良いかな?」 ためらいがちに言うみどりさんの前に、僕は左腕を差し出した。みどりさんは申し訳なさそうに、しずしずと僕のシャツの袖を捲くっていく。三回ほど折り返したところで、みどりさんは大声で言った。 「違う!やっぱりこの人…水島君じゃない!」

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