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間違えられた冬真 #4 side S (Soejima-kun)
バスが終点に近づき、小さなロータリーに差し掛かると、右の窓越しに小さな店が見えた。店の前には小さなベンチがあって、その人はそこに座って俺を待っていた。バスに気が付くと、その人は一生懸命停留所まで歩き出す。ゆっくりと、少しだけ足を引き摺りながら。その姿が何だかとても愛おしくて、扉が開くと俺はその人の元へ駆け寄った。
「こんにちは。冬真さん!お久しぶり!」
「添島くん…」
「今日は声が出るんだね!冬真さんの声、初めて聴いた!何か…可愛い!」
「もぉ…からかわないで。添島くん…元気そう…良かった。」
「うん。めちゃめちゃ元気!今日は無理言ってごめんね。閉店後の時間に。」
「ううん…でも…良いのかな…大事なパーティーなのに…うちで…」
「いいの、いいの。何よりも深田と水島の二人がするのなら冬真さんの店が良いって言ってるんだ。みどりなんて全然関係ないのに、一番大乗り気だし。」
「そうなんだ…ありがとう。さぁ、行こう。葉祐と冬葉がお待ちかねだよ…」
「葉祐と冬葉?」
「葉祐は…僕のパートナー。冬葉は息子…次男、小学生。」
「えっ?!冬真さん、子供がいるの?」
「うん、三人。全員男の子。実子は二人なんだけど…今は三人。今日いるのは冬葉だけ…他の二人は…今日は帰って来ないけど…」
「帰って来ないって…平気なの?まだ小さいんだろう?」
「うふふふ。二人とも大学生。一人はバイトで、もう一人は学生兼、自由業ってところかな。状況によっては…帰れなくなることがあるんだ。ごく稀にだけど…」
「なんか…スゲーな。俺の想像を遥かに越えているわ。」
驚く俺に冬真さんは小さく笑う。
ホント不思議な人だよなぁ。
この人と知り合ったきっかけは、俺が市内の公園でこの人と友達を間違えたこと。後で話を聞いてみれば、この人、俺よりも10歳以上も年上で、全然そんなふうに見えない年齢不詳さん。それに何より…この人と公園に来ていた藤原さんっていう人…あの人の冬真さんへの対応、あれはどっからどう見ても恋人同士、もしくはパートナーだよなぁ…
ふと、先日の光景が脳裏を過った。冬真さんを見付けた藤原さんは、彼を背後から抱きしめて、冬真さんの全てを確認する様に、『冬真、冬真』と何度も耳元て囁いて、何度も強く抱きしめていたっけ。それが済むと、今度は正面に回って冬真さんの頬を撫でたり、髪を梳いたり…俺達のバーベキューに合流した時も、食べる時以外、ずっと冬真さんの手を握っていたし…あれはどこからどう見ても、パートナーか恋人同士でしょ?でも、冬真さんのパートナーは別にいて、その上、息子もいて、そのうち二人は大学生だって?ますますカオスだよ。頭痛てぇ。
「ねぇ、添島くん…」
「……」
「添島くん?」
「へっ?あっ、えっ…なっ何?」
「どうしたの?」
気が付けば、冬真さんが潤んだ瞳で俺を見つめている。急に心臓の鼓動が高鳴り、自分でもよく分からないことを口にした。
「えっ、あっ、うん…冬真さんのパートナー…どんな人かなって思ってさ。ほら、俺、冬真さんを連れ去った張本人じゃない?怒られちゃうのかなぁって思ったりして…」
「うふふふ。きっと…大丈夫。」
「どうして?」
「葉祐のスイッチは…そういうところじゃないから…うふふふ…」
冬真さんはまた小さく笑う。
きれいな人だな…ホント。
この人は友人にとてもよく似ている。
だけど…知れば知るほど全然違う。
だって…水島をきれいだなって思ったことなんて一度もないし、アイツにこんな色気なんてないしさ。
それに何より…男を抱くのも悪くないかも…な〜んて初めて思っちゃってるし…
あれ?ヤバい!
これって…冬真さんの言うパートナーのスイッチなんじゃないの?
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