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ドーン #1 side Y
「ただいま〜ようすけパパ〜。」
「おうっ、おかえり!冬葉。」
「今回もたーくさんもらってきたよ〜いつものやつ♪」
冬葉は嬉しそうにランドセルから数枚の紙を出し、ひらひらと見せた。
「あれ?もうそんな時期?」
「うん。だから早く、かいに行かなくちゃ♪レターセット♪」
それは小学校から配布された学校公開のお知らせで、冬葉は毎回、担任の先生に、このお知らせをより多くもらっている。そして、自ら選んだレターセットで来校して欲しい人に手紙を書き、このお知らせを同封して渡していた。冬葉曰く、これは招待状らしい。俺の両親を始め、広行氏、平塚さん夫妻、朱美さん、西田さん夫妻は、この招待状を心待ちにしているほどだ。
「前のは?もうないのか?」
「あるけど、ぜーんぜん、たりないよ〜ちょっとしかのこってないもん。それに、おねがいのおてがみなのに、前と同じレターセットだなんて、ふゆくんのリュウギに反します。」
「流儀って、どこで覚えたんだ?そんな言葉。そうだなぁ…明々後日は?店も休みだし、ゆっくり見られるだろ?」
「ダメダメ!その日は和くんがおとまりしてくれる日だよ。せっかく、ようすけパパのために来てくれるのに!」
「あーそうだった…」
「あっ、ふゆくん、いいとと思いついた♪和くんにつれて行ってもらおうかな。学校でまちあわせしてさ♪」
「それ、図々しくないか?いくら何でも…」
「そうかな?和くんも小学校をおぼえられるし、それにショッピングモールよってから、うちに来るって言ってから、おねがいすれば、文ぼうぐ屋さんにもつれてってくれるはずだよ。だって同じたてものなんだもん。」
「そうだけど…何か悪くない?いかにもついでって感じでさ。」
「じゃあ、これが和くんじゃなくて、直くんだったらどぉ?ようすけパパ、直くんにわるいなぁって思う?」
「う〜ん…」
「直くんはよくて、和くんにはわるいってヘンだよ。和くんも直くんも同じ、たいせつなかぞくでしょ?」
「それは、そうなんだけど…」
「和くんはかぞくになったばかりだから、ようすけパパはそう思っちゃうんだね。でも、ここは思いきって、ずうずうしいかなってことも、ドーンって言っちゃった方がいいんだよ。そっちの方が、和くんだってドーンってなんでも言いやすくなるし。」
「ドーンとねぇ…」
「それにさ、和くんはもう、ぼくたちをかぞくだと思ってるよ。そのしょうこに、今回の『きせきのれんきゅう』も、ようすけパパのためにつかってくれてるじゃない?真ちゃん、またカンヅメちゃんになっちゃって、真ちゃんも直くんもいないから、一人でたいへんだろうからって、パパのこと心配してくれて来てくれるんだよ。それに、パパだって楽しみにしているんでしょう?和くんが来るの。いっしょにお酒のめるしさ。」
「まぁね。」
「ほらね。もうすでに、ずうずうしいことしちゃってるんだよ、ぼくたちは。」
まるで洋画の主人公のように、冬葉は自身の手を左右に広げ、同時に首も左右に振った。
「欧米かっ!しかしなぁ…う〜ん…」
「はい!ここはドーンとれんらくを!はい、ドーン!」
冬葉はスマホを差し出した。
「はいはい。分かりました。ドーンとメールします。ドーンと!何だか上手く丸め込まれた感が否めないけど。」
「パパ、『はい』は一回だよ。じゃないと、真ちゃんがもれなく、ドーンとオニさんになっちゃうから。」
冬葉と顔を見合せ、一瞬の静寂がやって来る。想像してみる…呆れ顔で延々と説教をする真の姿を…
そして、俺達親子は同時に恐怖の声を上げた。
「「ひぇ〜!!!」」
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全世界が一日も早く、こんな穏やかな日常を取り戻せますよう祈りを込めて…
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