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打ち上げ花火 #1 side R
「葉祐!葉祐!もう入っても良いわよ!」
私のその一声をお預けを余儀なくされている大型犬のように待っていた葉祐は、目の前の冬真を見て、すっかり言葉を失っていた。
「冬真は線が細いから、中にバスタオル巻いているの。気を付けてあげてね。」
葉祐の耳には私の言葉なんて全く届いていなくて、きっと目の前ではにかむ冬真しか見えていない。
葉祐と冬真は今日は浴衣デート。しかもお泊まり。
ふた月近く前、葉祐の元に一葉の葉書が届いた。その葉書を見るなり呟いた。
「あぁ。もうそんな季節なんだなぁ...」
「誰から?」
「前の会社の上司。」
「何で今更?」
「この季節になると毎年葉書をくれるの。市内の花火大会があるだろう?社屋の屋上からスゲーよく見えるらしいんだよ。だから、それに合わせて、毎年屋上で暑気払いをしてるんだって。これは、そのお誘い。」
「へぇ...未だに連絡くれるなんてありがたいわね。」
「この人はさ、俺が冬真のために会社を辞めたことを知ってる唯一の人なんだよ。もちろん、冬真との関係は話してないけどね。事件のことも知ってるし、俺のことより冬真のことを気に掛けてるんじゃないかな。いずれにせよ断るよ。」
「どうして?」
「どうしてって。去年までの冬真は外出なんて無理だったし、今なら行けるだろうけど、それこそムシが良すぎるでしょ?」
「そんなことないわよ!先方だって気に留めてるから、こうして連絡くれるわけだし。一度顔を出した方が良いと思うけどな。」
「う~ん...」
「いずれにせよ、冬真に聞いて決めたら?」
「そうだね。そうするよ。」
葉祐はその葉書をチェストにしまった。その様子から、葉祐は行かないつもりなんだと悟った。しかし、それに反して、冬真は意外な反応を見せた。しかもその反応は、冬真自身からではなく、意外な人物からの連絡で葉祐に伝わった。
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