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証拠 #1 side Y

やっとお許しが出て、入ることが出来た和室。そこには着付けを終えたばかりの冬真がいた。身にまとっている黒地に細い縦縞柄の浴衣は、彼の白い肌と、細くて美しい首筋から顎のライン、艶っぽいデコルテを更に際立たせていた。最上級の美しさに俺は悩む。何と言うべきなのか。知っている言葉のどれが当てはまるのか...こんな時、「神々しい」や「歩く凶器」なんて言葉を使うのかもしれない。しかし、どの言葉を並べてもチープに感じるだけだった。言葉を失った代わりに、気持ちの方はどんどん複雑と化していき、たくさんの思いが頭の中を駆け巡る。冬真に近くで花火を見せてやりたい気持ちは変わらない。絶対に喜ぶに違いない。きっと彼らしく小さく微笑んで、それはそれは可愛らしくも、更に美しさが増すのだろう。しかし、何もせずとも、その場にいるだけで香り立つような美しさと色気を放っている冬真を外出させることは、どうしても他人の目に晒すことに繋がる。また何か事件に巻き込まれる可能性もなきにしもあらずだ。次々と生まれ続ける思いに、肯定と否定を繰り返した。頭の中はそれでいっぱいで、母さんが何か言っていたけど、全く頭には入ってこなかった。冬真の手を引き、寝室に入ると、彼をベッドに座らせた。冬真は少し驚いたようなキョトンとした表情をしていて、とても可愛らしかった。それに伴って、彼を独占したいという気持ちがふつふつと沸き上がってきた。 いやいや、本末転倒。冬真のための花火大会、そのための浴衣だろう? でも...こんな最上級に美しい冬真を世間が放っておくはずがない。目を離した隙に何かあったら... だったら、最初から宿泊予定のホテルから花火を見れば良い。かなり小さくはなってしまうが、あのホテルなら見えないことはないだろう。その方が安全な上に、この美しい冬真を独占でき、一石二鳥じゃないか。 いやいや......... やっぱり堂々巡り。 ふと我に返ると、冬真がクスクスと笑っていた。 「へっ?どっ、どうかした?」 「ううん...ねぇ...ようすけ...」 「うん?」 「やめようか...はなび...」 「なっ、何で?」 「だって...こまってるみたいだから...」 「えっ?」 「ぼく...にあわないんよね...ゆかた...」 「へっ?」 「ごめんね...おかしいんでしょ?」 「いやいやいや...違うよ!違う!全然違うんだ!その真逆でさ、あまりにも綺麗だから...色々考えちゃって...結局はその...こんな綺麗な冬真を俺以外の誰にも見せたくないとか...心配というか...独り占めしたいっていうところに行き着いちゃって...器が小さいというか...煩悩の塊過ぎるというか...」 俺の告白を聞いた冬真は、急にベッドから立ち上がり、俺の前まで来ると、何も言わずキスをした。突然のことに驚いて、今度は俺の方がキョトンとした。その姿を見た冬真は、彼らしく小さく微笑んだ。 「ぼくのだんなさまは...いつになったら...わかってくれるのかな...」 「えっ?」 「ぼくはいつでも...どんなときも...だんなさまに...むちゅうなの。むちゅうすぎて...もう...みもこころも...だんなさまいろ。これも...ひとりじめでしょう?しかも...さいじょうきゅう...」 冬真はまた小さく微笑んだ。可憐に美しく。冬真の言葉と笑顔にすっかり舞い上がった俺は、キスを覚えたてのガキのように、がっつき気味に冬真の唇を奪った。 俺は思う。 冬真が俺色に染まったというのなら、俺は全てを見透かされているのかもしれない。きっと、あの美しい琥珀色の瞳に見つめられる度に... まぁ、それも悪くない。 だって…それは…俺達が一緒の時を刻んだ何よりの証拠なのだから。

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